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 祈り続けた農民のうちの1人は、ただひたすら祈り続けただけ。もう1人は、祈りながらも、雨に備えて畑を用意した。あなたはどちらかと聞かれ、グラントは畑を用意すべく、チームの目的を見直し、コーチとして選手に求めるべきは何なのかを問い直した。その答えは、力を出し尽くさせ、結果を神に委ねるということ。常に全力を尽くしているか、それは本当に全力か。そう自分に問いかけ、選手に問いかけたグラントは、チームを見事に生まれ変わらせた。

 フットボールの戦術ではない、選手の技術でもない。選手たちの気持ちの持ちようだけで見事に変貌を遂げたイーグルスは、ついに州のチャンピオンを懸けて、強豪ジャイアンツと対戦する──。

「映画の中に出てくるフレーズが、自分に引っ掛かってきたんです。明日が来ないで欲しいという不安と、明日が早く来てくれないかな、早く投げたいなという期待が引っ張りあう感じで……すべてにおいていいことをして、いい準備をして、あとは任せましょうという映画のストーリーが、あのときの自分にすごく合っていた。気持ちの持ちようで、すべてがいい方向へ変わっていく。そういう映画を観て、幸せな気持ちになれたんです」

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 勝ち切ることができなかった自分に対しては自信を持てなかった大谷だったが、彼は、それとは違う自信を持っていた。それは、自分にできることはすべてやり尽くしてきたという、揺らぐことのない自信だ。

 誰よりも野球に時間を費やしてきた。

 楽しいことよりも正しいことを選んできた。

 だから、野球の神様に結果を委ねる資格がある。

 この映画のおかげで、大谷は気持ちの整理がついた。心に宿る不安と期待を、ちょうどいいバランスで保ちながら、彼は準決勝を迎えることができたのである。

コントロールはアバウトでも、気持ちで負けないボール

 2度目の韓国戦は11月19日、東京ドーム。

 初回のマウンドに立った大谷は、韓国のバッターのある変化を感じ取っていた。

「一球一球、空振りしないぞという意志と、狙い球を定めてくる姿勢を感じました。初戦で抑えたからいけるんじゃないかとか、同じような感じでいこうと思っていたらやられちゃうと思いましたね。だから自分がもう1つ上のものを出さないといけないのかなと思いました」

©文藝春秋

 初回、大谷は1番の鄭根宇(チョン・グンウ)に149㎞のストレートを投じた。その初球、鄭はバットを振り切ってのサードゴロ。思えば初戦で1番に入っていた李容圭(イ・ヨンギュ)は、大谷の初球、揺さぶりをかけるためにバントの構えを見せていた。そのときとは真逆の仕掛けに、大谷は敏感に反応する。

 続くバッターはこの日、2番に入った李容圭。警戒レベルを上げた大谷は初球、153㎞のストレートを投げた。李もまた、思い切り振ってきて、空振り。さらにギアを上げた大谷は2球目、159㎞のストレートを繰り出した。この球にも李はバットを振ってきて、ファウル。そして、追い込んだ大谷の3球目は、早くも160㎞を叩き出した。これはストライクゾーンを外れたものの、5球目のストレートで李をサードゴロに打ち取る。