昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

 オーディション会場に着くと、日本の有名な俳優の方々の写真が貼ってありました。北野武さん、渡辺謙さん、真田広之さん、浅野忠信さん、菊地凛子さん、柴咲コウさん……そこで、ようやく「これ、ひょっとしてすごい作品なんじゃ」と(笑)。

演じた瞬間、椅子から転げ落ちんばかりの大爆笑が…

 キャスティングプロデューサーが来て、事前に渡されていた5つくらいのシーンを「これやってみて」と言われるがまま、自分なりに演じました。とはいえ、演技するのは初めてだったし、役を取りに行くという感覚もない。もしかしたら、肩の力が抜けていたのがよかったのかもしれないですね。

 ちょっとコメディタッチなシーンだったと思うんですが、僕が演じた瞬間、もう椅子から転げ落ちんばかりの大爆笑が巻き起こって(笑)。

米国時代の米本さん(事務所提供)

「うわ、何これ。めちゃくちゃ気持ちいいんだけど」って、本当に鳥肌が立ちました。僕がやったことに対して、こんなに笑ってくれる。僕という存在が受け入れられたということが、単純に嬉しかったんです。

 僕は子どもの時の寂しかった体験や、太っちょである自分を受け入れられないコンプレックスのせいで、昔から自己肯定感がものすごく低いんです。だからこそオーディションに合格した時は、「あなたがいいんです」と言ってもらえた気がして、なんかもうたまんなかったんですよね。かけがえのない「I LOVE YOU」をもらったな、と。最初目指していたものとは違うけれど、この「I LOVE YOU」に応えようと、出演を決めました。

米本さん ©文藝春秋 撮影・宮崎慎之輔

キアヌ・リーブスとの雨宿りの「映画談議」

 僕が演じた芭蕉は、赤穂の侍でキアヌ・リーブス演じる混血児のカイを子どもの頃から知る、幼馴染のような存在。そんな役柄ということと、英語ができるということもあり、キアヌと二人で話す時間にも恵まれました。

 撮影中に雨宿りしている時、キアヌとテレンス・マリック監督の『TREE OF LIFE』という映画について語ったことを思い出します。賛否のある作品だけど、僕はすごく好きなんだという話をしたら、キアヌはこう言ったんです。

「例えばここに建物が3個描いてある絵があって、それぞれ高さや色が違う。みんながそれを見て、こっちの建物は低い方がいい、この色は違う方がいい、建物の数はこうあった方がいいっていうけれども、それはもう描かれた絵なんだ。映画もそうだと思う」

米国時代の米本さん(事務所提供)

 キアヌの人生観や哲学を感じる言葉でした。映画においても人生においても、こうであってほしかったということはたくさんあるはずなんです。でもそれを人生の中でしっかり受け止めて、進んでいく。キアヌの演技に宿る、儚さや繊細さの一端に触れられた気がしました。

 キアヌは普段は饒舌なタイプではないですが、こちらが何かを投げかけた時には、きちんと向き合って、いろいろな経験をしている彼ならではの語り口で返してくれる人。子どもの頃から映画の中で見てきた彼と、そんなふうに語れるなんて貴重な経験をしました。

z