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「国鉄集団スリ事件」岡山グループを検挙

 三課時代の思い出深い事件としてあげられるのが、1963(昭和38)年ごろから1966(昭和41)年の間に起きた「国鉄集団スリ事件」である。

 この事件は、34名に及ぶ犯人グループが3年以上にわたり、関東から九州における広域で国鉄、私鉄の車内でスリを繰り返した大掛かりな犯罪で、分かっているだけでも746件、被害総額2699万円という戦後最大規模のスリ事件だった。ちなみに1963年当時の物価水準は、経済指標からすると現在の6分の1以下であり、現在の感覚からすればゆうに1億円以上の被害が出ていたことになる。

 このグループは、少年院や刑務所、暴力団等を通じて面識を持ったメンバーの集合体で、5~9名の小グループを編成しながら、岡山県を拠点に全国でスリ行脚を続けていた。

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「最近、山陰本線の豊岡(とよおか)駅やその周辺でスリ被害が多発している」

 そんな情報が福知山(ふくちやま)の鉄道公安室から兵庫県警にもたらされたのは1966(昭和41)年7月のことだった。

 7月13日、豊岡駅から2つ目の山陰本線江原(えばら)駅で被害が発生したのを確認した豊岡署員が、迅速な職務質問からスリ犯1人の逮捕に成功。ここから捜査三課が加わり「岡山グループ」と呼ばれたスリ集団の全貌(ぜんぼう)が次第に明らかになってきた。

 グループはほとんどが前科のある常習犯で、「カケ」「たち」「ビク」といった手法で多額の金銭を荒稼ぎしていた。

©iStock.com

「カケ」とは、「引っかける」から派生した隠語で、銀行や郵便局などの金融機関で金を引き出した客を「オガム」(探す)ことから始まる。客が電車やバスに乗ると、集団で素早く取り囲み、1人が衣類などにファスナーが引っかかったようなふりをして注意をそらすと、その間に「真打」と呼ばれる実行メンバーが金銭を奪い取るという方法だ。

「たち」は、列車に乗車する客を前と後ろから取り囲み、後ろから押すようにして慌てさせ、その間に前にいる「真打」が財布などを抜き取る。あるいは、客の前にいる人間が、互いのカバンが引っかかったと芝居を打ち、もめ事に気を取られているすきに後ろの「真打」が仕事をする。

「ビク」は、「ブランコ」とも呼ばれた手法で、網棚の上、あるいは帽子掛けなどに掛けてある背広のなかの貴重品を狙う。持ち主の注意をそらすため、乗換方法をたずねたり、わざとマッチを落とすなどして(当時の長距離列車は車内で喫煙できた)「すみませんが拾ってください」などと声をかけ、背広の持ち主が目を離したすきに「真打」が動くというわけだ。

 被害が報道されるようになったある時期から、犯人グループは警察の動きを警戒するようになり、さまざまな対策を編み出していた。そのひとつが「車内検札」の活用である。