母の愛情が末っ子の自分に向かない
姉2人に兄2人。吉田は5人きょうだいの末っ子として福岡に生まれた。
「小さいときの口癖は『お父さんにはお母さんが、お姉ちゃんには下のお姉ちゃんが、上のお兄ちゃんには下のお兄ちゃんがいるでしょ。ほらね、私だけ一人』でした。そのたびに母が悲しそうな顔して、『母さんがおるよ』と言ってくれたけれど、私は頑なに、『ほらね』って。5人もいるのに孤独だったんです」
末っ子の吉田と一番上の姉は8つ歳が離れている。子ども時代の8歳差はかなり大きい。
「私のコンプレックスのひとつは、きょうだい。4人ともすごく優秀だし、両親が喜ぶ仕事に就いているし。私一人だけずっと半人前という意識がいまだにあって」
吉田の母は幼稚園の教員だった。
「吉田家では夕方6時半になると掃除の時間があって、家族全員であみだくじを引き、当たったところを掃除するんです。思えば、母は共働きで私たちを育ててくれ、身体が弱く持病もあったためいつも疲れていました。子どもたちに家事を振ることでやっと回っていたのでしょう。
ただ、子どもが楽しんで何かに向き合うことを仕掛けるのがすごく上手な人でした。掃除もそのひとつで、何でもゲームに変換する人でした」
母を語る吉田の言葉には愛が溢れている。しかし、常に折り合いが良かったとは言えない。
「私が父親っ子だったから嫉妬もあったのかもしれないし、上の子のほうが優秀で母によくしていたのもあるかもしれない。きょうだいと比べると、私はあまり母に思われていないのかなと、感じることが時々ありました。5人もいれば、親の愛情に偏りは出る。やっぱり、言っちゃ悪いけど『こっちのほうがかわいい』みたいなことは、母にもあったんじゃないかな。当時はね、それを認めるのがしんどかったけど」
親子にも相性があるのは事実だ。しかし、思春期にそれを理解し、咀嚼できる者などほとんどいない。
母からの愛情が乏しかったという記憶は、大人になってもなかなか消えなかった。きょうだいに対する劣等感も同様だ。
「いまだにありますね。もちろん、この仕事を喜んではくれています。けれど、家族のことにおいては、私はいつまでたっても最後の5番目で、ほとんど打席が回ってこない。そういう劣等感はあります」
※後半では、「30歳を過ぎた新人」の彼女を見出した中井貴一とのエピソード、小劇場時代にお金を借りた長姉からのお叱りの手紙についてなど語られる。続きは発売中の『週刊文春WOMAN vol.13(2022年 春号)』にて掲載。
よしだよう/福岡県久留米市生まれ。1997年、小劇場でデビュー。2001年、女性3人で劇団「東京スウィカ」を旗揚げ。07年、東海テレビの昼ドラ『愛の迷宮』で映像に進出。14年、フジテレビの月9『HERO』の女性検事役で注目を集める。舞台『エノケソ一代記』(16)で読売演劇大賞優秀女優賞、『ジュリアス・シーザー』(21)で紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。雑誌『おとなの週末』ではグルメコラムを長年連載する。
ジェーン・スー/作詞家・ラジオパーソナリティ・コラムニスト。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で講談社エッセイ賞を受賞。最新刊は『ひとまず上出来』(文藝春秋)、『きれいになりたい気がしてきた』(光文社)。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、TBSラジオポッドキャスト「OVER THE SUN」放送中。
illustrations:Keiko Nasu
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2022春号
2022年3月22日 発売
定価550円(税込)