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「車が歩行者にさっさと渡れ!とイライラ…」ASDとADHDの当事者が語る、“発達障害”的な日本の実態

「車が歩行者にさっさと渡れ!とイライラ…」ASDとADHDの当事者が語る、“発達障害”的な日本の実態

2022/04/29

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, , 働き方, 医療

note

 またSNS空間、とくにツイッターは、字数が短いから極端な表現になりやすく、受け手の側も強く揺さぶられる。そうして一種のコミュニケーション障害が発生するんです。僕がいる「発達界隈」のコミュニティには、互いに(政治的主張は正反対の)苛烈な書き込みをしては、動揺しあっている人が沢山いて悲しくなるのですが、ツイッターをやっていると、定型発達者でも心のありようが極端化して、発達障害者のような振る舞いを見せると感じます。

©iStock.com

 自分の投稿に対する「いいね」が少ないと気持ちが落ち込んでSNSへの依存傾向が強まるのは、報酬系に問題が起きている状態です。発達障害者は報酬系の快楽物質を感じにくいため、過剰にしゃべったり過激な行動をしやすいと言われていますが、SNS空間ではだれもが過剰に振る舞いやすい。

 そこでコミュニケーション障害が生じて、あちこちからバッシングされ、クソリプを受けとりまくる。これはSNSによって、定型発達者が発達障害者めいた人生を生きているということを意味しています。ちょっと不思議ですね。

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心を開放してくれるのが文学であり芸術だった

――そうした発達障害的な閉塞を打破するものはありますか。

横道 「みんな水の中」と感じて朦朧と生きてきた僕に、唯一無二のかたちで「快晴」を与えてくれるのが、文学であり芸術でした。絵画でいえばセザンヌ、ゴッホ、マティス、ピカソ、ウォーホルなどが神のような存在としてもやもやした時空を祓ってくれますし、文学では特に透明感を感じやすい作品を偏愛しています。サリンジャーの「バナナフィッシュ日和」のような、海で主人公の心が突き抜けていく透明感に触れると、心身が晴れやかに解放されます。

――『イスタンブールで青に溺れる』にはそんな新しい風が吹くような体験が感動的に描かれていますね。

 先ほども言ったとおり、発達障害の当事者と非当事者のあいだにある差異は、曖昧です。発達障害がある仲間には、「この著者のこの部分は自分と同じだな、でもここはまったく違うな」などと思いをめぐらせてもらえればうれしいです。定型発達者のみなさんには、自分のなかにもある発達障害的な要素が極端なかたちで発露しているのが発達障害者なんだな、と身近に感じて楽しんでもらえれば幸甚です。

プロフィール

横道誠(よこみち・まこと)

 

 1979年大阪市生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科研究指導認定退学。文学博士(京都大学)。現在、京都府立大学文学部准教授。専門は文学・当事者研究。本来はドイツ文学者だが、40歳で自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症を診断されて以来、発達障害の当事者仲間との交流や自助グループの運営にも力を入れ、その諸経験を当事者批評という新しい学術的・創作的ジャンルに活用しようと模索している。著書に『みんな水の中——「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか』(医学書院)、『唯が行く!——当事者研究とオープンダイアローグ奮闘記』(金剛出版)がある。

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