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転倒して後頭部を殴打、酷い出血も

「すき家」関係者が明かす。

「『すき家』では主に防犯上の理由から0時~5時までの深夜帯でのワンオペ禁止を徹底していますが、午前5時からの朝帯では店舗によっては"ワンオペ”のところもあります。加奈子さんが倒れたという午前5時過ぎは、ちょうど朝帯に切り替わった時間で、それまで一緒に働いていたも従業員も勤務を終え、退店してしまっていたのかもしれません」

 店の防犯カメラには、厨房で倒れる加奈子さんの姿が映っていたという。転倒の際、加奈子さんは後頭部を強打したため、酷い出血があった。しかし不幸なことに、加奈子さんが倒れた厨房は、店の入り口や客席からは見えない奥まった場所にあった。

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加奈子さんが倒れた「すき家」 ©️文藝春秋

 結局、加奈子さんは3時間以上倒れたまま放置され、午前9時ごろ交代のため出勤した従業員によって発見された。すぐに救急搬送されたものの蘇生は間に合わず、死亡が確認されたという。

「17日の10時ごろに病院から電話を受けました。死因は不整脈による心不全だそうです。あのとき店内に他に人がいれば、加奈子が転倒したことに気づき、AEDや心臓マッサージなどの蘇生措置を行うことができたのではないか。そうすれば、彼女は死なずに済んだかもしれない……」(同前)

パートで労災も認められず…「ワンオペでなければ」という思い

 1月17日午後、病院で妻の遺体に向き合うことになった直樹さんは、同じ日の夕方、病院内で加奈子さんの上司にあたるゼンショーの社員と面会した。

「妻のことがショックで会話の内容はあまり覚えていませんが、謝罪などは一切なく保険のことを話したと思います。妻へは弔慰金として10万円が払われると。社員の方からは妻の勤務実態などの説明はなく、その後の葬儀にもいらっしゃいませんでした。

 妻の死に関して『ワンオペでなかったら』という悔しさはあります。仮に人件費などの問題で2人雇えないなら、防犯カメラを監視カメラなどに代えてもらうだけでもいい。一人で仕事をせざるをえない労働者の安全を『すき家』はもっと考えてほしいです」

 直樹さんは妻の遺影を見つめながら、そう語った。

山田直樹さん ©️文藝春秋

「すき家」にこの件について問い合わせると、5月25日に事実関係を認めたうえで、「山田さんがお亡くなりになる直前の労働時間は法定の労働時間内であり、過剰な無理をされていた事実はありません。しかし勤務時間帯は深夜であり、健康診断をきちんと受けていただいてご病気を早く察知できていれば大事には至らなかった可能性もあります。当社としては今後、全国の対象従業員に対して健康診断の受診を強く徹底し てまいります」などと回答があった。

 その4日後の5月29日、「すき家」から再度連絡があり、「本件を受け、すき家の経営方針として、本年 6月 30日までに全店の朝帯( 5時~9時)で複数勤務とすることを決定しました」と「朝帯のワンオペを廃止する」という内容の文章が届いたのだった。