2022年4月、漫画家の藤子不二雄Aとよこたとくお(横田徳男)が続けてこの世を去った。1日違いだった。二人に共通しているのは、トキワ荘で青春時代を過ごしたことだ。
トキワ荘は、昭和20年代後半から30年代にかけて多くの漫画家たちが暮らした伝説的なアパートとしてよく知られている。
手塚治虫、寺田ヒロオ、藤子不二雄(藤子不二雄A=安孫子素雄、藤子・F・不二雄=藤本弘)、森安なおや、鈴木伸一、石森章太郎(石ノ森章太郎)、赤塚不二夫、水野英子、よこたとくおらが入居していたほか、永田竹丸、つのだじろう、園山俊二らが足しげく訪れており、トキワ荘はさながら若き漫画家たちの梁山泊といった様相を呈していた。
(※編集部注:藤子不二雄Aさんの「A」は○の中にA)
“漫画の聖地”「トキワ荘」
木造2階建ての建物はとうの昔に取り壊されているが、長きにわたって“漫画の聖地”として愛されており、2020年には当時の姿を再現した「豊島区立トキワ荘マンガミュージアム」が開館している。
トキワ荘の知名度を飛躍的に高めたのは、なんといっても藤子不二雄Aによる自伝的漫画『まんが道』と、その続編『愛…しりそめし頃に…』だ。断続的にではあるが、43年間にもわたって連載が続いた大河青春ロマンである。あくまでもエンターテイメントとして描かれており、内容は虚実入り混じっているが、トキワ荘で漫画に打ち込む若者たちの姿が活写されている。
トキワ荘関連の書籍は『まんが道』のほかにも数多く刊行されているほか、96年には本木雅弘が寺田ヒロオを演じた市川準監督の映画『トキワ荘の青春』も公開された。現在はデジタルリマスター版が動画サイトで配信されており、もっとも手軽にトキワ荘について知ることができる作品だと言える。
トキワ荘“伝説”の「ほとんど触れられていない部分」
ところで、トキワ荘の“伝説”には、ほとんど触れられていない部分がある。
それは、何人かの漫画家には、漫画に打ち込む彼らの家事の世話をするために、母や姉が実家からやってきて同居していたことだ。『まんが道』と『愛…しりそめし頃に…』のトキワ荘パートにも『トキワ荘の青春』にも、彼らの母親たちが住み込みで家事をする場面は描かれていない。物語にする際に、事実の取捨選択をしたのだろう。
1958年(昭和33年)、石森章太郎、赤塚不二夫との合作のため、7か月ほどトキワ荘で暮らした水野英子は、自費出版した『トキワ荘日記』に次のように記している。