ジャーナリスト・小松東悟氏による「日経新聞で何が起きているのか」(「文藝春秋」2022年7月号)を一部転載します。
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最大の焦点は「天下りの禁止」
これからピークを迎える大手企業の株主総会シーズン。そのなかで、財界が密かに注目しているのが6月16日に予定されているテレビ東京ホールディングス(HD)の株主総会だ。民放大手、いわゆるキー局のなかで格下の扱いであるテレビ東京の総会がそこまで関心を集めるのは、今回の総会のテーマが同社の筆頭株主である日本経済新聞社との関係だからだ。そして、それは日本の経済報道をリードしてきた日経が覆い隠してきた宿痾の病巣でもある。
テレビ東京HD(以下テレ東)は日経が32.6%を出資する持分法適用関連会社だが、同社の社長は1973年就任の佐藤良邦氏以来、半世紀にわたって日経からの「天下り」ばかり。実質的には植民地だ。
それがテレ東の経営効率を下げている、とかみついたのが、香港を拠点とする米国系投資会社、リム・アドバイザーズだ。アクティビスト・ファンド(いわゆる「物言う株主」)として著名な同社は4月14日、テレ東の定時株主総会に合わせて株主提案書を送りつけた。そこには、普段は日経からの指弾を恐れている財界人が溜飲を下げるような批判が並んでいた。
リムの提案は以下の7項目だ。
1 日経からの天下りの禁止
2 顧問等の廃止
3 社外取締役の選任
4 取締役報酬の個別開示
5 資本コストの開示
6 政策保有株式の売却
7 剰余金の処分
これらの論点はいずれも相互に関連しているが、最大の焦点は「天下りの禁止」である。
テレ東の取締役トップ3である小孫茂会長、石川一郎社長、新実傑専務はいずれも日経で取締役を経験した人物だ。さらに、この6月からは同じく日経出身の吉次弘志・常務執行役員が常務取締役に就任する。そうなれば社内取締役7人のうち4人が日経、プロパーは3人のみになる。