6月15日、対馬から盗まれ、韓国に持ち込まれた「観世音菩薩坐像」の所有権を巡る控訴審が韓国中部の大田高等裁判所で開かれた。

 2017年3月に始まった控訴審の実に12回目。対馬・観音寺の田中節竜住職が被告側(韓国政府)の補助参加人として初めて出廷したこともあり、傍聴には整理券が配布され、中に入れない人のために別室で中継もされた。

 当日夜にはさっそく原告側の浮石寺の前住職がテレビ出演して現状を訴えるなど韓国でも再び注目が集まっている。

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対馬・観音寺の田中節竜住職 ©時事通信社

「かつて倭寇に奪われた自寺の仏像である」浮石寺が主張

 そもそもの発端は窃盗事件だった。

 事件が起きたのは10年前の2012年10月。対馬にある海神神社から国指定の重要文化財「銅造如来立像」が、そして同じく対馬にある観音寺から長崎県指定の有形文化財「観世音菩薩坐像」が盗まれた。ほどなくその年末から翌年にかけて韓国で犯人は逮捕。

 窃盗犯から運搬役、売買人と盗難にかかわった犯人7人の裁判が13年1月末に始まり、主犯格を含めた6人が懲役1~4年の実刑となり収監された。犯人が刑事罰となり、盗難品と確定した仏像は当然、それぞれの寺に返還されると思われたが、「観世音菩薩坐像」返還に待ったをかけたのが、韓国西部、瑞山市にある浮石寺だった。

 仏像は「かつて倭寇に奪われた自寺の仏像である」と主張し、大田地方裁判所に「移転禁止の仮処分」を申請。大田地裁はこれを認め、「観世音菩薩坐像」は韓国に留め置かれることになった(「銅造如来立像」は2015年に返還された)。

まさかの原告勝訴に政府も驚きと困惑

 しかしこの仮処分は裁判(本案訴訟)に移行しない場合は3年で効力が消失するもので、16年3月には、観音寺側も韓国政府に嘆願書を送付し、早期の返還を訴えてもいた。ところが、そうした動きに慌てた浮石寺は同年4月、今度は韓国政府を相手に仏像の引き渡しを求める裁判を起こす。

 17年1月末に一審判決が出たが、大田地裁は「証言などから仏像は原告(浮石寺)の所有として十分に推定できる」として韓国政府に仏像を寺に引き渡すよう言い渡し、まさかの原告勝訴に。「耳を疑った」と事件をよく知る韓国紙記者は言う。