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「エッセイの呪い、みたいなものがあって…」人気マンガ家が抱える“日常を描く上での葛藤”とは

山本さほインタビュー #2

2022/06/30

genre : エンタメ, 読書

note

エッセイの呪い、みたいなものがあって…

――たいへんでしたね。

山本 「女性がひとりで夜道を歩いているときに背後に男性がいたら、走って逃げるべきか」みたいな議論がツイッターでよく話題になりますけど、私は「走り出すと自意識過剰と思われるんじゃないか」とか「相手に嫌な思いをさせるんじゃないか」とか、変な気遣いが出ちゃうんですよね。でも安全性を考えたら、ちょっとでも嫌な予感がしたら走って逃げることが正解だと思います。

――ちなみに、過去にフィクション作品(『いつもぼくをみてる』)も描いていますが、現在はあまり意識していないのでしょうか?

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山本 まあ、でも、あー……、練習しなきゃな、とは思っています。エッセイの呪い、みたいなものがあって……。

 

――エッセイの呪い、とは?

山本 私みたいに自分の日常を描いていると、この先、結婚や出産などの人生の重大事があった場合、どこまで描くのだろうか、と悩んでいます。それは避けられないことなので。これから先、自分の身に起きたことや、そのときに抱いた感情を、フィクションに落とし込んでいく練習をしないとなぁ、とは思っています。そのへんが、これから私が頑張らないといけない課題ですかねぇ。

きょうも厄日だったら……?

――嫌なことがあった場合、山本先生の場合は作品にすることでネタにできますが、同じように“巻き込まれ体質”の読者にアドバイスするなら?

山本 なぜ私に厄が降りかかるのかと考えると、それは私がなめられやすいからだと思うんです。ヘラヘラしてたり、すぐ謝っちゃったり。これまで36年間生きてきて自然と培ってきた動きとかしゃべり方とか、表情とか、すべてが「なめられやすい自分」をつくっているんですよね。でも、それは決して悪いことじゃないと思っています。反対に「なめられにくい」人というのは、他人に威圧感を与えたり、ツンツンしているような印象を与えたりする人です。私はそういう人にはなりたくなかった。