あるいは、クリスマスプレゼントを買えないお父さんが、ものすごく情けない思いをして、自分はコートを着て暖房を消して寝ている。でも、子どもだけは暖かくさせて寝かせるんですね。それでプレゼントも買ってあげられないから、自分で小さな車を作ってあげるコマーシャルとか。自分で作っちゃったら、まったく消費喚起にならないじゃないですか。
國分 買わせるコマーシャルじゃないですよね。
なぜこのようなコマーシャルが流されるようになったのか?
ブレイディ そう。でも今年のクリスマスのコマーシャルは、こういうのが多くて。豪華な七面鳥の食卓なんかを出すと、「今年こういうクリスマスを過ごせる人がどれぐらいいるんだ」ってクレームがつくみたいなんです。だから、「今年のクリスマスのコマーシャルはケン・ローチみたいだね」ってみんな言うんですね。
そうなると、コマーシャルを見ている人たちも「自分たちも何かしなきゃ」という気持ちになるのか、地べたの人たちの立ち上がりが見えてきて、それに積極的に加わるようになっています。たとえばいま、イギリスの公立学校の五校に一校が校内にフードバンクを作っているという調査結果があります。いかにもフードバンクな設えだとなかなか入りにくいから、パントリー(食品貯蔵室)みたいな感じにして、みんなで食べ物を持ち寄って並べておく。そんなふうにして、送り迎えをするお母さんとかが気軽に持って帰れるようにしているんですね。うちの息子のカレッジでも、9月から始まって、校長先生から保護者に届いた最初のあいさつに「校内にパントリーを作ったから寄付をお願いします」というメッセージが入ってました。
近所のパブも、クリスマス当日も開けて七面鳥ディナーを激安で提供し、ディナーを作れない人たちが来られるようにすると言ってます。こういう立ち上がりがすごいんですよ。それこそアナキズムの感覚で言う相互扶助が、クリスマスを前に立ち上がっている。もともとイギリスって『クリスマス・キャロル』のような伝統もあるじゃないですか。今年は本当にそういうものを思い出させるクリスマスになってますね。
このような深刻な状況で私たちができることは…?
國分 消費を喚起するはずのコマーシャルが、逆に人々を消費から遠ざけ、ものを作る方に向かわせている。「立ち上がる」という今日のテーマがここで活きてきた感じがします。この対談に合わせて、ブレイディさんの本を読み直していたんですけど、今日は『ワイルドサイドをほっつき歩け』を読んでいたんです。
ブレイディ またワイルドな本を(笑)。
國分 これはおっさんについての本ですよね。いろんな問題を抱えた中年男性が登場する。このなかで、最近はコミュニティスピリットがよみがえってきていると書いてらっしゃるじゃないですか。あまりにも政治から見放されすぎて、貧乏人たちは自分たちで自治しないと生きていけない状況になってきていると。