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「立ち食い」とうたっているが…女性店主が「昼だけ営業の手打ちそば屋」をオープンした“清々しい理由”

「立ち食い」とうたっているが…女性店主が「昼だけ営業の手打ちそば屋」をオープンした“清々しい理由”

2023/03/14
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 天ぷらは舞茸の香りがまず広がる。そしてちくわ天も柔らかくよい出来である。トマト天は食べるとじわっとトマトのつゆがあふれる。とにかくおいしく完成された一杯である。

そばは田舎風でしなやか

手打ちの「立ち食いそば」を始めたワケ

 しかし、どうして低価格で手打ちそばを出しながら、「立ち食いそば」というショルダーネームをつけた「しおや」をオープンしようと思ったのだろうか。店主に質問してみると、なかなか納得できる素敵な理由を話し出した。

これでワンコイン程度というのは確かにお得

「最近の若い人達は、コンビニなどでファストフードばかり食べていて、自分のカラダをいたわってないと思う。だから、若い人でもワンコイン程度で立ち食い感覚で気軽に来てもらえる店を出したかった」という。そしてその思惑通り、若い人たちが来てくれるようになってすごく嬉しいという。

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 それともう1つ理由があった。「自分はまだ修行の身で、昼間だけの小さな店をやっと始めたばかりなので、頑張ってお客様や世間様に認めてもらって、立派な店を持てるようになるまで、根気よく頑張っていきたい」と話を続けてくれた。

 こんないい話は滅多にないので是非記事にさせてくれないかと相談すると、店主は慌てて「自分にはそば打ちの師匠がいて、その方に相談しないと分からない」という。後日連絡をもらう約束をして店を後にした。

 数日後、3月になり、熊澤店主から連絡があった。師匠から快諾が出たという。しかも師匠は私のことをよく知っているという意外な展開となった。

店主の師匠は「そば界の第一人者」

 熊澤店主がなぜそば屋を始めることになったか話を聞いた。店主はそばが好きで、そば打ちにあこがれていた。そして明治17(1884)年創業の老舗そば店「神田まつや」で働くことになった。つまり熊澤店主の師匠は6代目小高孝之さんだったのである。そば界の第一人者で、私も何度か取材し、お会いしたことがある。