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 睡眠は、アルツハイマー型認知症とも関係がある。認知症の原因のひとつがアミロイドβという老廃物で、これが脳の神経細胞のあいだに蓄積されると認知症の引き金になる。

 このアミロイドβは、覚醒時より睡眠中の方が2倍の速度で除去される。逆に、ひと晩徹夜しただけで神経細胞の間隙に存在するアミロイドβは5%も増加する。認知症の最大の予防は、ちゃんと眠ることなのだ。

「夢と能力」の関係とは?

 現在に至る「睡眠ブーム」のきっかけは、睡眠研究の第一人者マシュー・ウォーカーが2000年に行なった睡眠と記憶についての講演のあとの、一人の聴衆との会話だった。ピアニストだと自己紹介した彼は、「睡眠中に記憶を整理しているのではないか」というウォーカーの仮説について、「お話を聞いていて思い出したのですが、ピアノの練習でも同じようなことがよくあります」と感想を述べた。

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「夜中まで練習していても、どうしてもマスターできない箇所があるとします。いつも同じところで間違えてしまう。そしてマスターできないまま眠ってしまっても、翌朝になるとなぜか弾けるようになっている。完璧に弾けるのです」

 睡眠研究者のアントニオ・ザドラとロバート・スティックゴールドは、ほんとうに眠っているあいだに能力が向上するのかをタイピングを使って検証した。

 被験者に「4-1-3-2-4」の順番でひたすら数字をタイプしてもらうと、最初の5、6分で約60%速くなったが、そこで頭打ちとなり、10分間の制限時間が終わるまでに速さは変わらなかった。午前中に練習して夜にテストしたところ、指はちゃんと覚えていたようで、練習終了時と同じ速さで入力できたが、速くはなっていなかった。ところが、夜に練習して翌朝テストすると、タイプが15~20%速くなり、間違いも減っていたのだ。

 同様の学習効果は視覚や聴覚の識別課題でも確認されていて、どれも睡眠後に成績が上がった。

 睡眠時の学習は、眠りの深さによって役割がちがっている。タイピングのような運動能力は深夜のN2睡眠、言語記憶はN3睡眠、情動記憶や問題解決に関係するのはレム睡眠で、視覚的な識別能力課題では、夜早い時間のN3睡眠と深夜のレム睡眠が長いと翌日の成績が上がった。このように眠りの質によって学習分野が変わることが、レム睡眠からN3まで異なる睡眠の段階が生まれた理由かもしれない。