「そら、貯金作らなアカンわ。交流戦でつまずくと悪なるし、その逆もあるからな」
「いらんこと言うたらアカン」
当時の交流戦は24試合制だから、15勝9敗でいけば勝率5割に戻せる計算になる。その成績ならば、交流戦優勝の可能性だって膨らんでくる。
岡田の言葉を読み解けば、優勝して5割復帰、いや貯金生活へ、という勝敗ラインを想定しているとなる。
番記者たちは、だから「優勝」へと水を向けてみた。
ところが、そこにやすやすと乗ってくれない、こちらの期待するような見出しを立てさせてはくれない。心はお見通しとばかりに、釘まで刺してきた。
「言うたら、おかしなことになるんよ。いらんこと言うたらアカン」
つまり「優勝」という単語を封印する、というわけだ。理由を説明するために岡田が持ち出したのは、阪神監督時代の2008年、ソフトバンクと交流戦の優勝を争い、最終戦で逃したというエピソードだった。
「コーチがな、ミーティングでよ。『お前ら、こんなんやったら優勝でけへんぞ』って言い よったんよ。あれからアカンようになったんよ」
そのコーチの意図は、もちろん選手の気を引き締めるためのものだろう。しかし岡田は、それを逆に“心のスキ”と見たのだ。
岡田オリックスで「優勝」が”NGワード“になった日
「優勝」へ向かう「船」の舵を取り、方向性を示すのが船長の岡田なら、コーチたちは安全航行のために、船の中の持ち場で、それぞれの役目をこなすことが大事なのだ。なのに船内より、船外の方に意識が向いている。地に足がついていない。
「そやから俺、言うたんよ。『そんなしょうもないこと、絶対言うな』って。その気になったら、アカンということよ」
その日から、岡田オリックスでは「優勝」が“NGワード”となった。
オリックスは、交流戦で優勝戦線に浮上してきた。6月2日の中日戦(ほっともっとフィールド神戸)では、8回裏の時点で0―7のビハインド。そこから終盤2イニングで同点に追いつき、最後は延長11回、T―岡田が3ランを放っての劇的なサヨナラ勝利を飾った。