文春オンライン

《発掘秘話》阪神・岡田彰布監督が「優勝」ではなく「アレ」と言い続けた“納得の理由”

『阪神タイガースはなんで優勝でけへんのや?』より #4

2023/09/14
note

「そら、貯金作らなアカンわ。交流戦でつまずくと悪なるし、その逆もあるからな」

「いらんこと言うたらアカン」

 当時の交流戦は24試合制だから、15勝9敗でいけば勝率5割に戻せる計算になる。その成績ならば、交流戦優勝の可能性だって膨らんでくる。

 岡田の言葉を読み解けば、優勝して5割復帰、いや貯金生活へ、という勝敗ラインを想定しているとなる。

ADVERTISEMENT

 番記者たちは、だから「優勝」へと水を向けてみた。

 ところが、そこにやすやすと乗ってくれない、こちらの期待するような見出しを立てさせてはくれない。心はお見通しとばかりに、釘まで刺してきた。

「言うたら、おかしなことになるんよ。いらんこと言うたらアカン」

 つまり「優勝」という単語を封印する、というわけだ。理由を説明するために岡田が持ち出したのは、阪神監督時代の2008年、ソフトバンクと交流戦の優勝を争い、最終戦で逃したというエピソードだった。

「コーチがな、ミーティングでよ。『お前ら、こんなんやったら優勝でけへんぞ』って言い よったんよ。あれからアカンようになったんよ」

 そのコーチの意図は、もちろん選手の気を引き締めるためのものだろう。しかし岡田は、それを逆に“心のスキ”と見たのだ。

岡田オリックスで「優勝」が”NGワード“になった日

「優勝」へ向かう「船」の舵を取り、方向性を示すのが船長の岡田なら、コーチたちは安全航行のために、船の中の持ち場で、それぞれの役目をこなすことが大事なのだ。なのに船内より、船外の方に意識が向いている。地に足がついていない。

「そやから俺、言うたんよ。『そんなしょうもないこと、絶対言うな』って。その気になったら、アカンということよ」

 その日から、岡田オリックスでは「優勝」が“NGワード”となった。

 オリックスは、交流戦で優勝戦線に浮上してきた。6月2日の中日戦(ほっともっとフィールド神戸)では、8回裏の時点で0―7のビハインド。そこから終盤2イニングで同点に追いつき、最後は延長11回、T―岡田が3ランを放っての劇的なサヨナラ勝利を飾った。