勾配の多い路線向けに作られた115系
車体の色は、オレンジと深い緑の湘南色と、アイボリーと青の横須賀色。この2種類が基本だ。その後、地方に転属した仲間たちは、各地域の特別色に塗られた車両もある。湘南色と横須賀色は、もともと東海道本線の湘南電車と横須賀線で使われていた色だ。ただし、こちらで走っていた電車は111系と113系。似ているけれど違う。
111系と113系は平坦な地域を走る電車だ。115系は勾配の多い路線向けに作られた。まず111系が作られ、改良版として113系にマイナーチェンジ。これをベースに強力なモーターを載せた山岳バージョンが115系だ。わかりやすい見分け方は運転台付近の色の塗り分け。111系と113系は塗り分けのラインが斜め。115系は隅の丸い四角。
これにはちゃんと意味がある。111系、113系は、先代の湘南電車の塗り分けを参考に斜めにした。湘南電車の塗り分けは金太郎の前掛けになぞらえて「金太郎塗り」と呼ばれた。一時期、鉄道車両で流行った塗装だ。115系はなぜ金太郎塗りにならなかったかというと「編成美」を重視したからだと言われている。
115系は山岳路線向け、すなわちローカル線向けで、列車は3両1組。先頭車+中間車+先頭車。通勤通学時間帯は、3両+3両の6両編成や、3両+3両+3両の9両編成になった。このとき、先頭車が金太郎塗りだと、腰に巻いた緑の帯が、先頭車同士で向かい合わせたところで切れたように見える。それが美しくないので、四角に塗り分けたという。
ちなみに、当時の電車は電動車も2両1組が基本だった。モーター付き車両を2台まとめて、パンタグラフや制御機器を共用してコストダウンをはかった。111系、113系は、モーターなし先頭車がモーター付き車両2台を挟んだ4両編成が最少単位。モーターのある車両とない車両の比率は1対1になる。これに対して115系の3両編成は、モーター付き先頭車、モーター付き中間車、モーターなし先頭車だ。比率は2対1。115系は6両、9両と連結しても、常にモーター付き車両の比率が高くなる。それが勾配区間向け、というわけだ。
111系は遠い昔、113系は2011年にJR東日本管内から引退した。そして115系も首都圏から引退する。今後も関西や新潟地区の仲間は残るけれども、製造から35年以上の古参だ。全車引退も時間の問題だろう。しなの鉄道がJR東日本から譲受した115系も、8年かけて新型に置き換えると報じられた。JR西日本の山陽地区にも新型車両が投入されている。
快適さを考えれば、新しい車両の方がいい。それはわかっているけれども、115系の懐かしさに心引かれる。鋼鉄製の重厚な車体に、個室感のあるボックスシート。独特のモーター音。銀色の電車が増殖する中で、きちんと丁寧に塗り分けられた塗装。
「銀色のよぉ、ペラッペラみたいな電車が後釜だとよ……てやんでぃ」
昭和の頑固職人のような、気難しそうだけど頼もしい、そんな電車がまたひとつ消えていく。
写真=杉山秀樹/文藝春秋