コロナ禍から火が点いたといわれる「高級時計ブーム」。ロレックスをはじめ、高級時計ブランドの名が挙がることが多いが、じつは50万円以下の高級腕時計も売れに売れているという。とはいえ、数万円からApple Watchが買える時代にもかかわらず、なぜわざわざ本格腕時計を買う人がいるのか? 腕時計専門のデジタルメディア、『HODINKEE Japan』の編集長、関口優氏(39)にその理由を聞いた。(取材・構成/押条良太)

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高級時計ブームに沸く時計業界だが…

――世界的な高級時計ブームは今も続いているんですか?

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関口優氏(以下、関口) はい。2020年頃がピークでしたが、現在もロレックスやパテック・フィリップ、オーデマ ピゲなどの高級時計ブランドには長いウェイティングリストができています。ロレックスの正規店でも、棚に腕時計が並んでいない状況が続いていて、正規店を巡る「ロレックスマラソン」という言葉が生まれるほど。今はお金があっても、こうしたブランドの腕時計を買うのはなかなか困難だといえます。

『HODINKEE Japan』の編集長・関口優さん

――投資を目的に高級時計を買い集めている富裕層も少なくないとか……。手の届きやすい価格帯の腕時計は売れていないのですか?

関口 高級ブランドが火種になった時計ブームは、50万円以下を中心としたブランドにも波及していると思います。売れ行きが好調なブランドも出てきていて、苦戦が続いていた10万~25万円台のモデルも、スイスや日本の有力ブランドから新モデルが投入されています。

“オンオフ兼用”が売れる腕時計のキーワード

――現実的な値段です。どんな腕時計が人気なんですか?

関口 この価格帯の腕時計を買うユーザーは一般的なビジネスマンが中心。そこで求められるのが、平日のスーツにも、週末のカジュアルにもマッチする、いわゆる“オンオフ兼用”できる点です。近年、ビジネススタイル自体もカジュアル化が進み、オンとオフの境目がどんどん曖昧になりつつあります。そんな背景もあって、着こなしを選ばない腕時計のニーズが高まっているんです。

――つまり、プレミアうんぬんではなく、実用的な腕時計であるということですね。