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「いかに楽して、やらないか?」世界最前線で開発に挑むエンジニアと、広告業界の異端児が一致して推す“仕事の戦略”

牛尾剛×三浦崇宏

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, 読書, 社会, 働き方

note

三浦 スタートアップのエンジニアなんて深夜2時、3時までやる人も普通ですからね。

三浦崇宏氏  ©細田忠/文藝春秋

牛尾 でも当時の僕の上司がふらっとやってきて、「ツヨシ、働きすぎないで!」、そして何度も“Be lazy”と言うんです。日本の企業に勤めていて、生まれてこのかた一度も言われたことのない「怠けろや」なんて台詞を、ものすごくハードと聞いていた外資系の大企業で聞くとは思いもよらなかった。

 でも段々わかってきたのが、これは「どれだけ自分が楽をして、インパクトのあることをいかに考えてするか」という企業文化。それは仕事の優先事項を見定め、タスクに時間をとられすぎることなく自分の成長のために「学ぶ時間を確保する」という考えとセットになっている。

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「生産性」と聞くと日本人はタスクを沢山早くやることをイメージしがちですが、ここでは物事のインパクトは物量じゃない。むしろ物量は少ない方が良くて、自分も楽だし、そこで最大限の価値を出すことが高く評価されます。

いかに戦わないで勝つかが「戦略」

三浦 この本の中で僕がすごく好きな図があって、「優先順位をつけてフォーカスしよう」と言われると、日本だと一番重要な仕事はこれ、2番目はこれ、間に合えば全部やろうというのに対し、アメリカでは最重要な一個の仕事を死ぬほどやり抜いて、そこできっちり成果を出す。一番重要なイシューにフォーカスしてしっかり解決する。

『世界一流エンジニアの思考法』より/イラスト:docco

 これは僕らの仕事で言うと、「戦略」という言い方しますが、戦略とはすなわち「戦いを略す」、つまりいかに戦わないで勝つかなんですね。戦略と聞くとすぐ「どうやって戦うか」をイメージしがちですが、そうではなく「いかに戦わないか」を考えるかが戦略の本分です。国と国でいうなら、戦争するより前に、国力を大きく見せかけて戦わずして済ます方が一番賢い。

 ビジネスシーンはよく「勝ち負け」で語られがちですが、そもそも戦わず、競わずして成果を出すにはどうすればいいかを考えるところから働き方の変化は始まると思う。だから、牛尾さんのいうフォーカスとは、「やらなくていいことをきちんと見つけろ」ということだと思いました。

牛尾 戦略の意味、すごく面白い指摘ですね。インターナショナルチームでは「やらなくていいこと」を上司が率先して提案してくれます。

 ある時、僕がいろいろ仕事を引き受けすぎてパツパツになっていた時、上司のダミアンに相談したら、「君がいま一番重要だと思うことってなんだ?」と聞かれました。「そうですね。ハッカソンですね」と技術イベントが優先事項であることを伝えたら、「うん、僕もそう思う。じゃあツヨシ、今からそれだけやって他のこと一切やらなくていいから!」と。