Aの企業の課題がBの企業の答えになったりする
三浦 実はAの企業の課題がまるまるBの企業の答えになったりすることが普通にあるんです。例えば、僕が博報堂にいた頃、日産のディーラーにくるお客様の若い世代をすくいとれていないという課題があったんですが、一方、携帯のドコモは親子割を始めたけれど認知が低いという。なるほどねと思って、僕は日産に対して「車の親子割をやりませんか?」と提案しました。お父さんが買った車って、子供が18歳になったら下取りに出して新しいの買ってあげる家も多いですから、親子割やれば若い層も取り込めるんじゃないかと。
結果、けっこう売れて成功しました。つまり携帯キャリアにとって課題になっている問題が、そのまま自動車会社にはソリューションになった。マルチタスクで仕事を重ねる事で、結果的に課題解決のスピードが一段早くなることが、僕の場合はあります。
牛尾 エンジニアの世界でも、こっちで使えたアーキテクチャが、見方を変えるとここでも使えた、応用できたというのはありますね。ただ、仮に同時並行でプロジェクトが進む場合も、ここまであるタスクやったらきっちり切り替えてから次へ、といった脳の使い方をしますね。パソコンのCPUが同時処理で作業をしているようにみえても、あれは高速で切り替えているだけで、一度にCPUを専有する作業は1つ、という感覚に近い(笑)。
エンジニアにもランクがあって、プリンシパルという上位職の人はワールドクラスで複数のプロジェクトをこなしているので、それによってレバレッジが効いていて視野が広い、というのは感じますね。三浦さんのように横展開する力が非常に強い。
「抽象化」によって複雑なこともシンプルにできる
三浦 「これってこの事例でも使えるよね」「この案件にも応用できるよね」という展開力は結局のところ「抽象化」だと思うんです。事象の本質を抽象化してパターン転用していく力が生産性とも結びついていると思います。
牛尾 「抽象化」はプログラミングの世界でもよくあって、一つ一つゼロからつくっていたらすごく大変なので、プログラム自体を抽象化するテクニックがあります。プログラムの基本的な構造を徹底的に理解してそういう設計にすると、コードの量は少ないけど、ものすごく複雑なことをシンプルにできたりします。理解の深さが、最小の労力で最大のインパクトを生むことにつながるんです。
三浦 広告クリエイティブもプログラミングの仕事も、究極的には、世界に無限に溢れる情報を抽象化していくプロセスそのものの気がします。複雑な世の中の現象をどうやってコードに落としこみ、その仕組みをPCの中でクリエイトするかという世界は、思った以上に僕らと共鳴する部分が多くて面白かったです。
牛尾 本当にそうですね。今日は刺激的なお話をありがとうございました。
牛尾剛(うしお・つよし)
1971年、大阪府生まれ。米マイクロソフトAzure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア。シアトル在住。関西大学卒業後、大手SIerでITエンジニアをはじめ、2009年に独立。アジャイル、DevOpsのコンサルタントとして数多くのコンサルティングや講演を手掛けてきた。2015年、米国マイクロソフトに入社。エバンジェリストとしての活躍を経て、2019年より米国本社でAzure Functionsの開発に従事する。著作に『ITエンジニアのゼロから始める英語勉強法』などがある。ソフトウェア開発の最前線での学びを伝えるnoteが人気を博す。
三浦崇宏(みうら・たかひろ)
The Breakthrough Company GO 代表、PR/CreativeDirector。2007年博報堂入社、マーケティング・PR・クリエイティブの3領域を経験、TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立。「表現をつくるのではなく、現象を起こすのが仕事」が信条。Cannes Lions、PRアワードグランプリ、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSグランプリ / 総務大臣賞など受賞多数。著書『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』(SB クリエイティブ)が Amazonのビジネス書ランキングで1位に。『超クリエイティブ 発想 × 実装で現実を動かす』(文藝春秋)。ほか著書は5冊。東京大学、早稲田大学、 筑波大学などで講師実績あり。THE CREATIVE ACADEMY主催。