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 メディアとの結託が日本人の価値観にジャニーズを刷り込ませ、少々のことではびくともしないシステムを完璧に作り上げた。彼らの辞書にこれまでスキャンダルという文字はなく(なぜならばメディアが扱わないから)、商品のイメージアップになる健康的で明るいイメージのタレントがきれいに陳列されてきた。200社以上のスポンサーがジャニーズを支えていたのはそれを物語っている。

メリー氏は「ぶん殴りたい」「いい死に方しない」と…

 しかし一方で、ジャニー氏の性犯罪がここまで蓋をされてきたことに不可解さは残る。

 そこまでメディアが口をつぐむのは利益だけの問題であろうか。その鍵となるのはジュリー氏の母、故メリー氏の存在だ。

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 10月の会見で代読されたジュリー氏の手紙には「母メリーは私が従順な時はとても優しいのですが、私が少しでも彼女と違う意見を言うと気が狂ったように怒り、叩き潰すようなことを平気でする人でした」と記されていたが、メリー氏のような強烈な人物はなかなかいない。ジャニー氏に代わってトラブル処理や交渉事をやっていたのは彼女であり、実に老獪であった。身内可愛さから弟の犯罪を「病気」と哀れんだ彼女は、その事実をひたすら隠蔽し、力で周囲をねじ伏せようとした。

 筆者は2010年12月、週刊文春で同事務所の成り立ちを連載記事で執筆した際、メリー氏に呼び出された。顧問弁護士から連絡があり、乃木坂にあったジャニーズ事務所本社を訪れたところ、大勢の幹部に囲まれるなか“吊し上げ”にあった。メリー氏は「ぶん殴りたい」「いい死に方しない」などとすごい剣幕で悪態をつき、筆者が「帰る」と言っても激昂してそれを許さず、やりとりは深夜に及ぶまで5時間以上続いた。証拠のある事実を述べても「私が知らないものは事実ではない」と支離滅裂だった。何度も「謝れ」と詰め寄られたが、「文春が性加害報道を謝罪した」と喧伝されるのは予想できたので耐えた。

 ジャニーズ事務所が飴を与える一方で、メディアの担当者を鞭打ってきたことは有名な話だ。自分が絶対に正しく、奴隷にならないと許さない。功労者のSMAPの解散劇もその例のひとつである。

看板が撤去された旧ジャニーズ事務所の本社ビル ©時事通信社

 特別チームの調査報告に課題が羅列されていたが、それを解決するにはどれだけの年月がかかるだろう。ハラスメント体質は、ジャニーズ事務所が本来持つ企業的DNAではないか。23年間嘘をつき通していたことを考えれば、いくら弁明したとしても問題企業である。

 海外メディア記者はマフィア的体質と断罪しており、「存続することはありえない」と指摘しているが、日本でもおかしいと思う人は多いはずだ。一般的にSDGsやコンプライアンスをうたうならば、まずフェアでなければ土台が崩れる。

 世間の信頼を完全に失わないうちに、大手メディアもその本分に気づくべきである。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。