壮大なニセ人民解放軍事件もスケール感が小さくなった
「縮小再生産」については、ある詐欺の手口を例に説明してみよう。1989年3月に湖北省武漢市で、詐欺師2人が街にニセ人民解放軍のオフィスを設立して3年間「駐屯」し、何食わぬ顔で地域の党や軍関連のイベントに出席しながら解放軍ビジネスをおこなった事件がある。
似た事件は2001年に安徽省でも起き、こちらでも詐欺師がニセ人民解放軍を作ってニセ軍用車を乗り回し、ニセ煙草を販売するビジネスに手を染めていた。さらに2004年には山西省太原で、学生600人を集めて5年間にわたり開学していた人民解放軍空軍学校を名乗る教育機関が実はニセ人民解放軍のニセ学校であることがバレて、当局により閉鎖されている。
しかし、最近の類似事件にここまでのスケール感はない。例えば2016年に雲南省昆明市で軍人を詐称して婚活サイトに登録して、少なくとも女性6人を食い散らかして金銭を貢がせていた男が逮捕された。また2017年には詐欺グループがカモたちを信用させるため、軍高官を装った人物が出席する集会を開いていたことがバレた……というふうに、全体的に話が小粒になっているのだ。
村同士の血みどろのバトルロワイヤルもすっかりおとなしく
これは農村部の村同士が私的に戦争をおこなう行為「械闘」のニュースも同様だ。清朝末期(咸豊年間)の広東省で村の戦争が盛り上がって数十万人規模の死傷者が出る内乱に発展した話はスケールがでかすぎるが、15年ほど前までは村人数千〜数万人が参加して、軍隊の横流し兵器や偽造の銃火器でバンバンと殺(や)り合う派手なバトルロワイヤルがたまに起きていた。
頻度の面でも、ゼロ年代までは月に1回くらいのペースで中国のどこかで械闘が発生し、よく村境の家が焼き討ちされたり車が破壊されたりしたものである。
しかるに、最近は械闘のニュースも年に1回、2回もあればいいほうだ。使われる武器もせいぜい棍棒や農具で、昔と比べるとかなりおとなしい。近年の械闘関連のニュースは、過去の因縁で数百年間にわたり通婚を拒んできた福建省の村が歴史的和解を遂げたといった、平和的な話が多くなってきた。
「これはヤバイ」という“常識”を持つ人が増えてきた
こうしたスケールダウンの理由は簡単だ。近年の中国は社会の近代化や経済発展がいよいよ進み、「普通の常識(=先進国的な感覚)」を持つ人が増えた。すなわち、極端にダイナミックなパクり行為や、危険すぎる商品の販売や環境汚染行為をヤバいと考える感覚の持ち主が増えてきたのだ。中国名物の怪しいITガジェットも、消費者の目が肥えたり、製造元が割とちゃんとした企業に成長したりしたせいで、やはり徐々に減っている。
実地で取材した限りでは、そもそも最近の若者は村を離れて都会に出てしまうので、田舎で械闘のようなトンデモ事件を起こすだけの元気のいいやつの絶対数が減った――、という寂しい事情も存在する。中国の発展と社会構造の変化は、ヘンな出来事を駆逐していくのである。