「投資移民希望者も失望していますよ。たとえば、台湾で1年しっかり会社を経営していたって、いまの台湾では投資ビザを得られなくなったんです」
台湾ではかつて、台湾の国内で1年間の経営をおこなっていれば簡単に投資ビザを出した。だが、香港デモ以降に香港人の大量流入が始まったことで、台湾当局は条件のハードルを引き上げ、3年間の経営と実店舗を持つこと、2人以上の台湾人を雇うことを義務付けるようになった。
「中華人民共和国」の人間の帰化を進められるのか
こうした待遇に怒りを覚えた香港人の一部が、今回の総統選で柯文哲を応援するようになっている(選挙権はないと思われるが)。彼らに言わせれば、蔡英文と民進党は香港デモのお陰で前回の選挙に勝ち、選挙期間中も香港との連帯をさんざん訴えていたにもかかわらず、当選すれば「用済み」とばかりに切り捨てられたというわけだ。
いっぽう台湾人の側にも言い分はある。香港人の構成は複雑であり、中国大陸出身者も数多くいる。さらには親共産党派の人物が、政治難民を装って台湾に大量に移民し、選挙権を得てしまう懸念も十分に考えられる。おいそれと受け入れるわけにはいかないということだ。
事実、台湾の大陸委員会(中国大陸や香港・マカオ関連業務をおこなう政府部門)は2022年5月、香港人が台湾で5年間就業すれば帰化を可能とする法律改正を検討したが、数人の民進党議員から強硬な反対の声が上がったことで、このプランは塩漬けになった。
香港人の5年帰化案に反対した民進党の議員たちの反対理由も、香港人の帰化のハードルを下げて選挙権を与えてしまえば、台湾の政治に対する中国大陸からの浸透を許してしまうから……というものだった。
裏切られた革命
民進党は台湾アイデンティティが強い政党だ。ただ、これは裏返せば「民主主義」の連帯よりも台湾一国の防衛を優先し、また台湾人に対するほどには他国人(香港人)に対する博愛精神を発揮しないと言うこともできる。なにより、台湾の議員にとって亡命香港人問題は票にほとんどつながらず、政策としての優先順位はかなり低い。
「香港デモの当時は『今日の香港、明日の台湾』という言葉が流行りました。僕らは民主主義のために戦ったのに、結果は蔡英文と民進党に漁夫の利を与えるだけで終わったんです」
ある在台香港人の男性は、私の取材にそう自嘲した。5年前の香港デモの台湾における後日談は、あまりに救いがないものとなりつつある。