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 もしウクライナ戦争が無いままだったら、ショルツ政権の当初コンセプトどおりの内政・基本産業・インフラ重視政策により、2050年に向けた農政プランもさしたるボロが出ることなく進行し、社会不安もそこまで増大しなかったのかもしれない。

 しかし実際には戦争が勃発し、EU内の各国間の軋轢を背景に各国内で自国優先の保護主義的なマインドが拡大し、ドイツ政府は農民の「非政治的」傾向につけ込んだ突然の補助金カットで農民の怒りを買い……。それをチャンスと見た右派ポピュリストが農民を煽り、政治的に急進化させようとする状況が現出している。

 農家が全体としては穏健保守のように見えたとしても、そのグループの内面にはいろいろな力学が渦巻いている。たとえば農民の最大の組合組織であるドイツ農民連盟は、明確にAfD(右派政党「ドイツのための選択肢」)を「好ましくない右派ポピュリスト政党」として拒否している。しかし一方で、より小規模な農家が多い農家組合組織はAfDやその周辺団体へ接近する傾向が強い。また、そもそも「東西格差」以来の不満によって旧東独エリア農民の右傾化・アンチEU化が進行していて、昨今の情勢を機にいっそう加速したという話も聞く。

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穏健に見えた農家たちが急速&極端に政治化する現象

 コロナ禍やウクライナ戦争が広範な社会不安を招いた、と漠然とよく言われるが、具体的にどんなポイントが真のツボかといえば、たとえば今回紹介したドイツ農民のような、それまで政治的に比較的穏健と思われていた層が急速に政治化、それも極端化してしまう現象である。

メルケル元首相 ©GettyImages

 そして正直、メルケル前首相のいるCDU(キリスト教民主同盟)やSPD(社会民主党)といった伝統的な有力政党は、この社会的力学にちゃんと追随できていないように見える。

 右派ポピュリスト勢力の立ち回りの巧さもあるが、他のEU諸国と同じようにドイツでも、保護主義・排外主義的なマインドが「確かに問題はあるけれど、EU的な欺瞞よりは遥かにマシな」ものとして広範に受け容れられつつある。農民たちの政治的変質は、まさにその象徴事例といえるだろう。

 そして折り良くというか悪しくというべきか、2024年はEU圏の選挙イヤーであり、ドイツの東部3州の州議会選、そして欧州議会選が待ち構える。その結果が今後のEUのベクトルに大きく影響することは確実だ。

 これまでドイツの新型ポピュリズム政治はAfDがその話題を一手に引き受けてきた感があるが、「既存有力政党はダメだが、AfDも信用ならん」という有権者も実は少なくない。で、そういった層の票が流れそうな反移民主義を掲げる左派新党の旗揚げも注目されている。なにやら、極論政党のバリエーションがひたすら充実していきそうな予感がしないでもないが。