まず重要なのは、今回のデモの中心が中小の自作農たちという点だ。彼らにとって予算編成をめぐる政府の失態はある意味、権力の不誠実さを証明する「大きなツッコミどころ」のひとつに過ぎない。
根本的な不満と危機感は、実はEUの長期的な農政プランにある。2050年までに気候中立を実現するために打ち出した「グリーン・ディール」、さらに持続可能な食料システムの構築を目指す「Farm to Fork」戦略の一環として、農業経営に関わる新ルールが次々に登場。
「土壌中の栄養損失を少なくとも50%削減し、2030年までに肥料の使用量を少なくとも20%削減すること」などが掲げられている。わかりやすくいうと、バイオ技術などのふんだんな投入によりEU圏の農地を「絶対に痩せない」土地にする予定なのだ。
これは一見素晴らしい計画のように思えるが、裏を返せば「そういうハイテクな土地のセットアップが出来ない者はEU圏で農業をやっちゃダメ」という話なのである。そんなお金のかかるセットアップが出来るのは実際には巨大資本をベースとした高度な産業組織のみであり、中小の自作農はそのシステムに呑み込まれる未来しかない。
ありていにいえば小作農化、さらには巨大資本に雇われる「社員」化への一本道である。組織や個人の欲得の問題を抜きにしても、そんなことが道理として許されるのか? そもそも農業政策として根本的に間違っているのではないか? という話である。
「普段は静かな農家たちが怒っている!」という余程の気配
もうひとつ重要なのは、ドイツ農家はそもそもあまり社会的デモ活動に積極的でなかった、という点だ。ドイツという国は学校教育でデモ参加の重要性を教えるいわば「デモ大国」ではあるが、基本的にそのムーヴの中心は「都市文化」「インテリ」「意識高い系」「業態別の全国規模ユニオン」にある。
農家の生活文化のコアにある土着的なプライドや質実剛健さとデモは相性が悪く、農民たちは(もちろん濃淡のグラデーションはあれど)政治パフォーマンス的アクションに対しておおかた冷淡だ。ゆえに今回、そんな彼らが敢えて大々的に王道の政治デモに打って出たというのは、きっと余程の事情があったからに違いない! と皆ナチュラルに感じるのだ。
ドイツに限った話ではないかもしれないが、都市生活者に比べて農民には、
・日常活動では非政治的な態度を維持したがる
・敢えて政治的に分類すると保守
という全体傾向が長らく存在する。内心はどうあれ実務主義というか穏健保守というか。そして、昨今の社会情勢は彼らを変えようとしている。