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5年前の75億円が120億円になった理由、120億円で抑えられた理由

 それでも75億円から120億円では45億円も上昇している。何が起きたのだろうか。

「75億円は5年前の数値ですが、そこから今年までの37パーセントのインフレを加味しています。75に1.37をかけると約103億円です。さらにミニ新幹線(在来線の線路を使える)ではなく、フル規格(新幹線用の線路が必要)の車両をそのまま入れるには20億くらいプラスになります」

 たしかに建設コストに関する状況はウクライナ戦争の後に変動しており、資材の海外からの調達が難しくなったうえに円安によって輸入価格も増加している。

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「コスト削減のために、私の案では“はこだてライナー”を廃止しています。そこに反対する人もいると聞きます。しかし、はこだてライナーはもともと新幹線がない区間をつなぐための“新幹線接続列車”で、新幹線が乗り入れてくれるなら不要です。乗入れ構想は、並行在来線問題と合わせて考えるべきで、新函館北斗~函館間を第三セクターが引き受けるとして、“電車”の運用はコストがかかりすぎます」

 現状でははこだてライナーが快速電車として担っている地域輸送の部分は、ダイヤ案の調整によって維持できるとも吉川氏は言う。問題は「はこだてライナーという名の電車」のコストだ。普通列車を気動車にすれば、道南いさりび鉄道と乗務員も車両も共通運用できる。気動車の快速列車を「はこだてライナー」と呼べば済む問題といえそうだ。

 山形新幹線や秋田新幹線のように、線路改良期間中は運休するのか、という懸念もあるが、吉川氏は「運休なしで工事できる」という。

「現在のダイヤには影響しないよう通常の保守作業と同様な方法で工事を行います。列車の運休などは全く必要ありません。私が示した案では工事着手から7年半かかるとしましたが、作業パーティーを増やし、それぞれの駅間での工事を同時に行うこととすれば、大幅な工期の短縮は可能です」

吉川氏が作成した工事工程の見積もり(高速鉄道建設研究会資料より)

 北海道新幹線の函館駅乗り入れは、「札幌~函館間の所要時間短縮」「東北新幹線沿線都市~函館間の所要時間短縮」「函館~青森間の津軽海峡経済圏振興」など、利点の多い構想だ。かつてはフル規格の新幹線を分岐して約1000億円以上かかると見積もられていた区間だが、在来線の改良でフル規格新幹線を直通させるというアイデアであれば、約120億円で達成できることになる。

 今月中には、函館市の依頼を受けた「千代田コンサルタント」の調査結果も発表される。総工費の1つの目安は、吉川氏が発表した120億円になるだろう。本件は函館市だけでなく、北海道、JR北海道、JR東日本にとっていい話だ。実現に向けて前向きな結果が出ることを願わずにはいられない。