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 一方、後者の「賃貸用マンション・アパート」のオーナーは1人。全体のバランスを重視するため、家賃を上げるときはすべての部屋が対象になるそうだ。個人の契約更新のタイミングなど、増額する時期に多少のズレはあれど、部屋ごとの賃料の差は開きにくいのが特徴だ。

そのまま値上げに応じるべきなのか

 数千円の賃料増額でも、年間で数万円のコスト増につながる。引っ越しを決断するほどでなければ、そのまま値上げに応じるべきだろうか?

「大前提として、家賃の値上げは双方の合意がなければ成立しません。家賃の増額に疑問があれば、まずは話し合いによる解決を目指しましょう。初めに不動産情報サイトなどで、自宅周辺にある似たような物件の家賃を確認し、値上げ後の金額が相場以上であれば交渉してみてください。

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 周辺の相場に相当する金額で5%~10%弱の値上げは妥当な金額です。現在の家賃が10万円なら10万5000円~11万円までの値上げは、不当な値上げとは言えないでしょう。言うまでもありませんが、エリアによって値上げ幅もまちまちなので、あくまで目安として捉えてください」

※写真はイメージ ©hana_choco/イメージマート

 ちなみに、家賃増額の通知を受け取った後、交渉を進めている最中も値上げ前の家賃を支払い続けていれば、退去を強いられることはまずないという。話し合いは、感情的にならず落ち着いて進めるのが望ましい、と幸田さん。

「稀ですが、オーナーとの交渉がうまくいかず、まったく耳を傾けてもらえないこともあります。その際は、あまり知られていない方法ですが『弁済供託』を行い、交渉をすることができます。

 例として挙げるなら、物件のオーナーが変わって相場と見合わないほど高額な値上げに踏み切り、入居者に『家賃の増額を受け入れないならば退去してくれ』と強硬な態度を取るケース。日本人オーナーから外国人オーナーに切り替わった場合に、認識の違いから賃料トラブルに発展する可能性はあります。国が変わると賃貸不動産に関する常識は根底から異なるので、まったく交渉ができず、家賃を受け取ってもらえない状態に陥ることも。その際は、供託金として“家賃に相当すると考える金額”を直接法務局の『供託所』に預ければ問題ありません」

 供託金を預けると、法律上は家賃を支払ったのと同じ効果が得られるという。家賃の値上げに抗い、支払いを拒否すると家賃の滞納を理由に退去を求められるリスクがあるが、供託制度を使えばその心配は解消される。

「供託所に供託金を払っているあいだ、入居者は借りている部屋に住み続けられます。紛争中、オーナーは供託金を受け取れなくなるので、交渉に応じてくれる可能性が高いです。交渉期間の目安は3カ月ほど。交渉をして、家賃の値上げが決まったら、その差額分を支払います」

 たとえば、家賃を10万円から12万円に上げたいオーナーと、10万円のまま住みつづけたい借り主が3カ月間話し合いをして、月の家賃が11万円になったとする。それでは、供託金を預けていた期間は払うべき家賃が足りていない状況になるので、借り主は3カ月分の差額となる3万円を改めて支払うという。

「ただし、供託は本当に困ったときの最終手段である点は心にとめておいてください。話し合いの意向も示さずに借り主の権利だけを主張して供託所に走るのは、相手にケンカを売っているようなものなので、非常に危うい方法です。その後も住み続けるならば、最優先すべきなのは穏便な話し合いです」

 さまざまな理由や思惑が交錯する家賃の値上げ事情。オーナーと入居者が納得いくまで話し合えれば、最適解が見つかるかもしれない。