高額療養費制度で返ってくるのが……
僕は同業者が加盟する国民健康保険組合に入っており、ここに「高額療養費」の申請をすると、一定額を超えた分は戻って来る。
高額療養費とは、その月の中で、一つの疾患の治療に対して支払った医療費が高額になった時、あとから申請すると一定額を超えた分が戻って来る制度。「一定の額(自己負担限度額)」はその人の収入によって異なるが、がん治療のように継続的に高額の医療費支払いが続く治療において、この制度は大きな意味を持つことになる。
繰り返すが2023年の1年間で僕が支払った医療費総額は114万2725円。一方同じ1年間で戻って来た返戻金総額は47万5893円。差し引きすると年間の支払額は66万6832円ということになる。ただし国保組合からの払い戻しは、実際に僕が病院の窓口でお金を払ってから数カ月後になるので、今回記した返戻額には一部2022年に支払った医療費の返戻分も含まれるし、逆に2023年終盤の返戻分は含まれていない。そのためハッキリとしたことは言えないが、僕のケースで言えば自己負担総額の3~4割程度は高額療養費で戻ってきているような肌感覚はある。高額療養費という制度がある国に生まれてしみじみよかったと思う。
おまけに生命保険でも入院費などがカバーされるので、それも大いに助かっている。保険のことなどは保険会社と別れた女房に任せっきりだったので、最初はどこに訊けばいいのかすら分からずに困ったものだが、保険代理店の担当者が面倒がらずに親切に教えてくれるので、仕組みがよく理解できるようになってきた。そして、次第に流れが見えてくると、「上手くできているものだ」と感心するようになった。こうした保険や医療費に関することは、中学校あたりできちんと教えたほうがいいと思う。教えているのかもしれないけど……。
ちなみに昨年12月に受けた放射線治療の費用も生命保険でカバーしてもらえるかと思って申請したところ、「吸収線量総計が50グレイ以下であること」などを理由に給付が認められなかった。でも、放射線治療の保険金に線量による基準があることを知っただけでも勉強になる。
ただ昨年、というより実際には一昨年、僕は大失敗をしている。「月刊B藝春秋」2022年7月号で、僕は50ページを超える大特集を担当した。その原稿料が6月30日に「ドッカーン!」と音を立てて振り込まれたのだ。あわてて預金通帳を持って銀行に行き記帳をしたら、通帳が印字のインクで重くなるほどの金額が刻まれていた。
これは大いに喜ばしいことで、僕は意味もなく友人や学生時代の後輩などを誘って飲みに行き、意味もなくご馳走したりして散財した。
するとどうだろう、翌年(2023年)の健康保険料と高額療養費の基準額が上がってしまったのだ。国保組合に支払う健康保険料は、それまで月1万5200円だったのが2万2900円に上がった。高額療養費の自己負担限度額は、それまでの5万7600円から8万100円に上がった(ただし、3カ月以上高額療養費に該当すると限度額が低減されるので、4カ月目以降は4万4400円になった)。
こうした金額は、毎年4月5月6月を標準月額報酬とし、この3カ月間の報酬で次年の健康保険料が算出される仕組みなのだ。6月30日にB藝春秋から振り込まれた巨額の原稿料は、僕の健康保険料と高額療養費の基準額を上昇させた。振り込まれたのが翌日の7月1日だったら何事もなかったのだが、大体僕の人生はこういう時、つねに「損」のほうに進路を取るようにできているのだ。
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長田昭二氏の本記事全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
■連載「僕の前立腺がんレポート」
第1回「医療ジャーナリストのがん闘病記」
第2回「がん転移を告知されて一番大変なのは『誰に伝え、誰に隠すか』だった」
第3回「抗がん剤を『休薬』したら筆者の身体に何が起きたか?」
第4回「“がん抑制遺伝子”が欠損したレアケースと判明…『転院』『治験』を受け入れるべきなのか」
第5回「抗がん剤は『演奏会が終るまで待ってほしい』 全身の骨に多発転移しても担当医に懇願した理由」
第6回「ホルモン治療の副作用で変化した「腋毛・乳房・陰部」のリアル」
第7回「恐い。吐き気は嫌だ……いよいよ始まった抗がん剤の『想定外の驚き』」
第8回「痛くも熱くもない〈放射線治療〉のリアル 照射台には僕の体の形に合わせて…」
第9回「手術、抗がん剤、放射線治療で年間医療費114万2725円! その結果、腫瘍マーカーは好転した」
第10回「『薬が効かなくなってきたようです』その結果は香港帰りの僕を想像以上に落胆させた」
第11回「『ひげが抜け、あとから眉毛とまつ毛が…』抗がん剤で失っていく“顔の毛”をどう補うか」
第12回「『僕にとって最後の薬』抗がん剤カバジタキセルが品不足! 製造元を直撃すると……」