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「20年くらい前までは、授業で怪我をするといっても、せいぜい捻挫や打撲で済んだものです。でも、最近はちょっと走って転んだだけで、前十字靭帯断裂とか、アキレス腱断裂とか、頭蓋骨骨折といった大怪我が起こるようになりました。普段から体を使っていない子が多いので深刻なものになりがちなのです」

 独立行政法人日本スポーツ振興センター「学校の管理下の災害─基本統計─」によれば、1‌97‌0年代と比べると、今の小中高生の学校における骨折率は2.4倍となっている。運動の機会が減っているにもかかわらず、骨折率が高まっているのは、運動能力が下がっていることの表れだと考えざるをえない。

 こうしたことは整形外科の分野でも注目されており、日本整形外科学会では「子どもロコモ(運動器症候群)」と呼んでいる。関心のある方は、NPO法人「全国ストップ・ザ・ロコモ協議会」のホームページで事例が紹介されているので見てほしい。

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「女の子投げ」する男子たち

 今回、先生方から運動能力の低下を危惧する声があまりに多く寄せられたため、私は島根大学地域包括ケア教育研究センター講師の安部孝文氏にインタビューした。子どもの運動機能や体作りの研究者だ。

 安部氏によれば、子どもの運動能力を測る指標の一つが「ソフトボール投げ」だということだ。

 ボールを投げる動作は、全身を使って行う。しかも、日常ではやらないような動きが多い。そのため、運動能力の差が如実に表れるのだそうだ。

 図1を見てほしい(調査対象は小学5年生)。2010年くらいから飛距離が急落しているのがわかるだろう。因果関係は定かではないにせよ、子どもの間にスマホやタブレットが普及した時代と重なることは記しておきたい。

 

 似たようなことだと、子どもの視力の低下も著しい。小学生で視力1.0未満の子は、1986年には19.1%だったが、2022年には37.88%にまで上がっているのだ(「学校保健統計調査」)。眼鏡をかけている子どもが確かに町中でも増えている。これもまたデジタル機器の影響を疑わずにはいられない。

石井光太著『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)

 先生(東海、30代女性)はこう話す。

「クラスでボール投げをやらせると、男子でも8割くらいの子が“女の子投げ”をするのが普通です。投げる時に飛び跳ねるとか、なぜか真横に投げることもあります。あとは、右腕と右足を同時に前に出して投げようとして倒れ込む子もいますね」

 女の子投げとは、肩の筋力が弱かったり、ステップを踏んで反動をつけることができなかったりして、砲丸投げのような投球フォームになることである。運動能力が均一に育っていないと、そのような投げ方になり、飛距離が出ないのだ。