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 この一件から校長は、子どもたちの身体活動の範囲が狭まっていることを実感したという。

 校長は語る。

「限定されたスポーツしか体験していないと、運動能力が総合的に育ちません。学校の体育の授業では、できるだけいろんなスポーツを体験させようとしています。ただ、1種目に割ける時間には限界があります。せいぜい3コマくらいでしょう。そうなると、ある程度の総合的な運動能力がベースとしてなければ、やらせてはみてもうまくできないままということになるのです」

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 たとえば、体育の授業でティーボールをやらせたとする。ティーボールとは野球と似た球技で、ピッチャーの代わりに、バッティングティー(台)の上に柔らかなボールを置いてバットで打つ。

 授業の目的には、体力の向上だけでなく、ボール遊びの楽しさやルールを覚えさせることも含まれる。だが、ボールの投げ方すらわからない子たちが、2~3回授業でやったところで、楽しいと思えるまでには至らないだろう。

スポーツで自尊感情を上げるドイツ

「もう一つ心配しているのは、体験した競技が少ないと、スポーツへの苦手意識を必要以上につけてしまいかねないということです。球技が苦手な人でも、武道なら得意ということもありますよね。でも、サッカーしかスポーツの経験がなく、それがうまくいかなかったら、いくら武道のセンスがあっても、『私には運動能力がないんだ』と考えてスポーツ自体に興味を持てなくなる。そうした決めつけが、本来持っているはずの可能性を潰してしまうのです」とは先の校長の弁だ。

 このことは、小学校ではやらない競技に当てはまるかもしれない。

 短距離走、マット運動、バスケットボールといった競技なら、大抵の小学校で授業として行っているので、普段は外遊びをしない子でも、授業で自分の運動能力やセンスに気づくこともある。

 だが、アイススケート、剣道、スケートボード、相撲といった競技は、学校で習う機会が少ない。むしろ友達との日常の遊びの中で興味を膨らませ、やるようになるものだ。逆にいえば、友達と遊んでいないと、才能に気がつかないまま、スポーツそのものに苦手意識を抱きかねない。