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――それでも、周りは「栄光の架橋」について沸きに沸いていたとも思いますが……。
 
冨田 どこか他人事のように聞いていた記憶があります。

「美しい体操」をキーワードにした理由

――体操ニッポンが追及する「美しい体操」の源流は冨田さん。冨田さんから内村航平さん、橋本大輝選手に受け継がれているように見えます。

冨田 受け継がれているのではなく、進化していると言った方がいいと思います。そもそも、「美しい体操」を言い出したのは私かどうかも分かりません。

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 私が「美しい体操」をキーワードにしたのは、高校時代にベラルーシのビタリー・シェルボの演技を知ってからです。バルセロナ五輪で6つの金メダルを獲得した彼のビデオを見たとき、「なんて美しいんだ」と。

 動きに無駄がなくて、指や足の先にまで神経が行き届いていて、演技全体にまとまりがあって。そういうのを全てひっくるめて感動したんです。こういう体操を自分は目指すべきなんじゃないかなと思って、「美しい体操」という表現を使うようになりました。

©深野未季/文藝春秋

 内村の体操は美しさがあって、さらに難しい技を追求して、国内外の個人総合で40連覇という前人未到の記録を樹立しました。

 橋本にもその路線を追い求めてもらいたいと思いますが、彼が記者の方から「内村さんのように難しい技に挑戦するのか、それとも冨田さんのように美しさを追求するのか」というようなことを問われた際に「僕はハイブリッドで行きます」と答えたそうです(笑)。

「誰かを超える」ではなく、新しい路線を見つけていく彼の姿には成長を感じますし、本来の良さが出ているなと思って見ています。

日本時間の7月30日、団体総合で優勝を決めて喜ぶ橋本大輝 ©時事通信社

体脂肪率は1.2%だった

――ただ、美を追求している選手たちの筋肉量は半端ないですよね。

冨田 私が現役の頃は、体脂肪率が1.2%でした。でも、筋肉が多すぎると日常生活で不便なことも。水の中では筋肉の重さで沈みやすいですし、腕がとても重いので、少し歩いただけで疲れます。今でも歩くのは苦手ですね……。

©深野未季/文藝春秋

――アテネ五輪の選手だった方々は今でも体操関係の仕事をしています。

冨田 鹿島は日本体操協会の副会長、水鳥寿思は代表監督、そして米田さんは徳洲会体操クラブの監督だし、私は順天堂大学体操競技部の監督。今回、代表に選ばれた5人のうち岡慎之助と杉野正尭は米田さんが監督を務める徳洲会体操クラブで、橋本、萱和磨、谷川航は順天堂大学出身ですね。