メリー氏と事務所で対峙したとき……
デビュー当時事務所から「売れない」と判断されたSMAPを大スターに押し上げた功労者は飯島氏だが、メリー氏が次第に彼女に対しジュリー氏を脅かす存在と危険視するようになったという。決定的な亀裂は、2015年1月の週刊文春によるメリー氏に対するインタビューでのこと。同誌が巷間噂されるジュリー派と飯島派について問うたところ、メリー氏は激昂。「私の娘が次期社長」と言い、飯島氏を召集し記者の前で叱責した。「うちの娘と飯島が争うなら私は飯島に『出て行け』と言うしかない。だって飯島は私の子供じゃないんだもの」と結んだが、完全なパワハラである。
私も以前メリー氏と事務所で対峙した経験があるが、一方的な主張をまくしたて、恫喝は数時間に及んだ。多くのメディア関係者が同様の目にあっており、事務所の力を背景に意のままにしようとするやり方は皮肉にも効力を発揮している。公共の電波を預かるテレビ局が顕著で、ジャニーズに不利益なことはタブー中のタブーだ。その理由としては番組でジャニーズのタレントを多用しているためだが、同業他社と比較しても異常なほどの気のつかいようだ。2001年公務執行妨害と道路交通法違反(駐車違反)で渋谷警察署に現行犯逮捕されたSMAPの稲垣は、テレビの報道では“容疑者”ではなく“メンバー”と言い換えられた。
「変なこと書くと、あなた大変な目に遭うよ」
また2011年、ジャニー氏の自宅に見知らぬ男が侵入した事件で私が管轄の警察署を取材した際、警察署幹部に「ジャニー氏のことで変なこと書くと、あなた大変な目に遭うよ」と“忠告”されたこともある。公権力さえも一芸能事務所を特別扱いするのかと驚きを禁じ得なかった。むろん6兆円の市場規模を持つ広告業界も同様で、出稿する企業も同類と言っていい。メディアがジャニーズの影響力を肥大化させているのである。
17年前、週刊文春がジャニー氏の少年に対する性的行為を告発した際、ニューヨークタイムズのカルビン・シムズ記者は私にこう語った。
「ひとつの企業がメディアを完全に支配していることなど先進国では絶対にありえないし、これほど深刻な問題を世間がまったく知らないというのもあきらかに異常だ。民主主義の根幹である表現の自由をおろそかにしている日本は、とても先進国とは言えない」
彼の言葉はいまだに生きているどころか、年月を経てなお重みを増している。