人を育てるマネジメントのヒント

――スポーツに携わる企業の経営者として読まれるといかがですか。

山本 僕の中で参考になったのは、選手たちを鼓舞して勝たせるためのマネジメントです。企業経営者として社員を育てたり、会社自体を発展させていったりする、マネジメントのヒントがぎっしり収められている……改めて自分の社員に声を掛けるとしたら、どういうタイミングで、どういったモチベーションを与えたらいいのかを、『俺たちの箱根駅伝』の甲斐監督からはすごく勉強させられました。

金メダルを獲得した男子体操の萱和磨(中央)、谷川航(左) ⒸJMPA

 バスケットボール男子日本代表のトム・ホーバス監督もそうですが、一流といわれる指導者たちは、やはりここいちばんの勝負所での選手への声の掛け方、試合の流れを見る目線が優れています。だからチームが一体感をもって、最後の最後に五輪予選を勝ち抜くところまで持って行けたわけで、本番でもあと一歩のところまでフランスを追いつめた。こういった感覚を知るためにも、いま現場で頑張っているすべての指導者に、この本を読んでもらえたら、ヒントを得られるんじゃないかと思いますよ。

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池井戸潤『俺たちの箱根駅伝』

 箱根駅伝の仕事も経験し、現在、法政大学のスキー部監督を兼任している社員がいるんですが、先ほど取材前に「今、『俺たちの箱根駅伝』をオーディブルで聞いて、感動している真っ最中なんですよ」と声をかけられました。本の中で甲斐監督が会社外で学んだことを、いずれ企業にフィードバックする仕組みを使っていましたが、うちの会社には機会があったらスポーツ指導者を兼任で任せて、そこで経験したことやネットワークを、きちんとビジネスにつなげていくという考え方を実践しています。

 アスリートのマネジメントをしつつ、スポーツマーケティングも行っている会社というのは日本にはほとんどありません。僕らはどちらかというと選手の情熱や想いに立脚しがちな会社ではあるけれど、それだけだと選手の成績次第という博打みたいになってしまうし、コロナのように人が集まる、応援すること自体が止められる時だってあります。スポーツマーケティングという部分で企業はもちろんですが、地域の街づくりや、社会貢献にも積極的に携わりながら、「アスリートとともにスポーツの力で未来を創る」ことに、これからも取り組んでいきたいですね。

 

山本雅一(やまもと・まさかず)

1964年生まれ。駒澤大学卒業後、広告代理店に勤務。96年にスポーツビズを設立。アスリート・指導者・文化人の競技からライフプランまでをマネジメントしている。

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