かつて、犬や猫などのペットは拾ったりもらったりするものだった。しかし今や、ペットショップで購入するのが当たり前になっている。それに伴い、劣悪な環境で犬や猫を「増産」する繁殖業者の問題も顕在化してきている。

 ここでは、朝日新聞記者の太田匡彦さんがペットビジネスの裏側で奴隷のように扱われる犬や猫たちの実態を追った『猫を救うのは誰か ペットビジネスの「奴隷」たち』(朝日文庫)より一部を抜粋。

 利益のために劣悪な環境で犬を飼育する繁殖業者の問題を取り上げる。(全4回の4回目/最初から読む

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「金網」のなかの犬たち

「うちの犬たちは不幸です。私から見てもかわいそうです」

 犬の繁殖業を営む女性はそう話し始めた。

 関東地方南部のその繁殖業者のもとに、2017年から18年にかけて複数回、私は足を運んだ。100匹を超える犬を詰め込み飼育する、典型的な繁殖業者。その考え方や犬への思いを改めてしっかりと聞き取るためだ。

 女性が、私鉄沿線の住宅街で繁殖業を始めたのは20、30年前だという。最初は数十匹ほどの繁殖犬を用意して営業を始めたが、いつの間にか増え、いまでは約150匹の繁殖犬を抱えている。

 飼育施設のなかに案内されると、犬たちの甲高い鳴き声に包まれた。

写真はイメージ ©AFLO

 30平方メートルほどの広さに、50~70センチ四方の金属製のケージが所狭しと積み重ねられている。すべてが3段重ねで、1つのケージに1、2匹ずつ犬が入れられている。

「狭いスペースのなかでなるべく多くの犬を飼育しようと考えるのが、ブリーダーの常識です」と女性は説明する。以前は3、4匹ずつケージに入れていたが、犬同士のケンカが起きることから1、2匹ずつに改めたという。

 犬たちの足元は金網になっている。金網の下にトレーが敷かれ、そこに糞尿が落下する仕組みだ。従業員は女性やその家族を含めて10人もいない。子犬も含めれば常時200匹近い数の犬の面倒を見るには、こうした飼育環境にせざるを得ないと話す。

「犬たちは1日3回くらいウンチをする。金網じゃないと犬が汚れてしまう。体重の重い犬は、外を歩いていないのにパッド(肉球)が固くなったり、座りダコができたりするけど、犬の脚のことまで考えられない」

 ただ、犬たちの衛生状態には気を配っていると言い、毎日5~10匹ずつシャンプーしていると説明する。この際、シャンプー対象の犬たちはケージから出され、建物内の一部を動き回ることができる。つまり犬たちは1カ月に1度程度だけ、ケージの外に出られる。

「元気に生かしてなんぼだから」と言い、何か問題があれば動物病院に連れて行く。エサも高価格帯のものを与えているという。