談春 女性の落語家って男でも女でもない存在だなと思うんです。うちの弟子は、国立大学の大学院まで行った子。なのに何で落語家の弟子なんかになるんだろう。何で師匠と言われるおじいちゃんたちに寄席で囲まれてるんだろう。「早い話が介護ですね」なんて笑いながら何で10年も頑張れるんだろう。
最初はよくわからなかった。でもね、男でも女でもない視点で落語を作ってくれるのは、女の落語家しかいないと思うようになったんです。だからいまは、ちょっぴり弟子に期待してますね。
「俺の人生、全部偶然なのにな」
岡村 若い客がいないと談春さんは嘆くけれど、談春さんの会に行ったとき、客席は老若男女で満員でした。年季の入った落語ファンもいれば、20代30代もちゃんといる。昔の談春さんのような10代の少年もいる。もう本当に豊かな客層で、幸せな空間。僕はすごく幸せな気持ちになったんです。「ああ、いい噺を聴いたな」って。
談春 「老若男女で満員」「幸せな空間」。この発言も、記事で大きく(笑)。ただ、僕の人生なんて全部「たまたま」。たまたま談志の弟子にしてもらった。たまたま書いてみたらと言われて書いた本がヒットした。たまたま役者をやってみるかと言われドラマに出演したら話題になった。
だから、「幸せな気持ちになった」なんて言われるとおもはゆい。「俺の人生、全部偶然なのにな」って。岡村さんはどうなんですか? 崇められる自分をどう感じます?
岡村 ラッキーだなと思いますよ。僕も「たまたま」ですから。
談春 ああ、そこは同じなんだ。
岡村 結局、談春さんが運をつかむための努力、厳しい修業をなさっているからこそ、「たまたま」にめぐり逢える。最初にも言いましたが、談春さんはとっても華があって色気がある。見た目からそう。着物姿もそうだし、枕から本題に入るときにサッと羽織を脱ぐ所作だったり、いちいちカッコいいんです。粋なんです。それは修業をしたからこそかもしれないし、天性のものかもしれないし。
談春 でも、結局は談志の弟子になれちゃったことが僕のすべてなんですね。この対談のタイトルに倣うなら、それが僕の「幸福への道」のスタートですから。
※落語の世界における変化やジェネレーションギャップ、立川談春さんの夫婦観を変えた夫婦の危機について語った全文は、『週刊文春WOMAN2024秋号』で読めます。
text:Izumi Karashima photographs:Takuya Sugiyama
hair & make-up:Maiko Ichikawa(Saito), Harumi Masuda(Okamura)
おかむらやすゆき/1965年兵庫県生まれ。音楽家。86年デビュー。『TV Bros.』( 東京ニュース通信社)で連載中の「あの娘と、遅刻と、勉強と」を書籍化した『あの娘と、遅刻と、勉強と 3』(東京ニュース通信社)が発売中。映像作品
『アパシー』が10月16日発売。11月よりウィンターツアー 「芸能人」開催予定。
たてかわだんしゅん/ 1966年東京都生まれ。落語家。1984年、立川談志に入門。1997年に真打ちに昇進。前座生活を綴った『赤めだか』(扶桑社)で第24回講談社エッセイ賞を受賞。『下町ロケット』(TBS)をはじめ、ドラマや映画に多数出演。今年1月より芸歴40周年特別企画「立川談春独演会~これから~」を開催中。
【週刊文春WOMAN 目次】大特集 パートナーは必要?/谷川俊太郎×内田也哉子「母と父の恋文」/『光る君へ』大石静、『虎に翼』吉田恵里香に聞く/稲垣吾郎×朝比奈秋 白熱3時間
2024秋号
2024年9月21日 発売
定価715円(税込)