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寅子が裁判官になってから…あえて描かれた“欠点”

 今作を見つめつづけて思ったのは、かなりバランスを意識して作られたドラマだったということだ。依頼人の正義を追求する弁護士から、寅子の存在そのものが“正しさ”の象徴だとされる裁判官になってからは、特にパワーバランスを気にしていたように思う。

 たとえば、アメリカ視察から帰ってきた寅子が、いつのまにか後輩たちを「スンッ」とさせる側になっていたり、娘の優未(竹澤咲子)とギクシャクした関係になったり、花江(森田望智)のお土産に英語の料理本を渡したりと、無自覚に強者として振る舞う姿が描かれていた。これまで清廉潔白の存在として描かれがちだった“朝ドラヒロイン”という立場の寅子を通したからこそ、登場人物たちが抱える違和感や非対称性が浮き彫りになっていた。

NHK『虎に翼』公式Xより

 ほかにも、男子学生から“魔女部”と揶揄されていた寅子たち女子部のメンバーが、花江を「女中さん」と間違えたエピソードでは、立場が弱いとされている人たちさえも、無意識のうちに差別や偏見で誰かを傷つける恐れがあることを指摘した顕著な例だった。つまり『虎に翼』は、登場人物の魅力だけではなくあえて欠点を描くことで、作品内における均衡を保っていたように感じるのだ。

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 だが一方で、『虎に翼』がやり残した課題もあった。たとえば、寅子と航一の「夫婦別姓問題」は、社会に認められずとも大切な仲間たちに祝福されるという締めくくりに至ったが、轟(戸塚純貴)たち性的少数者については、マジョリティーの寅子に“理解してもらうこと”が精一杯で、どこか歯切れの悪さを感じなくもない。

NHK『虎に翼』公式Xより

『虎に翼』を観て思い出したのが、同じく吉田恵里香が脚本を手がけ、2023年に放送された単発ドラマ『生理のおじさんとその娘』(NHK総合)だ。

「生理のおじさん」として一躍時の人になった生理用品メーカー勤務の幸男(原田泰造)が、テレビで「娘の生理周期を把握している」と発言したことで大炎上。それまで「男性なのに生理に理解がある」と世間から好意的に見られていた主人公が一転して、バッシングを浴びてしまう。「生理」という共通のテーマだけでなく、『虎に翼』のオープニングアニメーションを手がけたシシヤマザキの起用や、猪爪家の末弟・直明を演じたBE:FIRST三山凌輝の出演など、『虎に翼』のプロトタイプ版とも捉えられる作品だ。