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──演技について監督からはどのようなリクエストがあったのですか?

成田 監督とは、「義男が『本当の自分』と『そうありたい自分』のどちらが本物か、自分でもわからなくなっているほうがいいのでは」という話は何度もしましたね。それで、観ているお客さんとともに、義男も徐々に「本当の自分」に気づいていくように、細かい部分を意識して演じていた記憶があります。

 ただ、何をしていてもどんな状況であっても、義男の軸には、中村(映里子)さんが演じる福子のことが好き、という強い想いがあるので、そこがブレなければ、あとは自由にやっていいよ、という感じでした。

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©山元茂樹/文藝春秋

──作中で義男が疾走するシーンでも、福子への想いが炸裂していました。

成田 あのシーンは、本作のなかでもっとも重要といっても過言ではないかもしれません。どういう人間がどういう想いで走っているかが画面から伝わるように、と僕なりに考えていたんですけど、衣装合わせのときに監督から、「義男は腕を振らずに走ると思います」と言われたんです。僕自身も同じイメージでした。義男は腕を曲げずに伸ばしたまま、なおかつ振らない。それを繰り返した結果として、独特の切迫感が生まれましたし、感情を揺さぶられるとても良いシーンになったと思います。

「撮影初日は手探りでした」

──役作りで難しかったところはありますか?

成田 これはどの作品でどんな役を演じるときもそうですが、撮影前にあれこれ考えるよりも、僕はとにかく現場に飛び込んでしまおうというタイプなんです。ただ、撮影初日は手探りでしたね。義男の言動が、いかに彼の日常的なものであるのかを示さなければならないけど、対面する相手を前に、果たして義男ならどんな態度を取るのか、彼のキャラクターというものを掴もうといろいろ考えながらやっていました。