異例のスピードで「捜査特別報奨金制度」が適用されたワケ

 事件発生当初、警察は早期に犯人を逮捕できると楽観視していたフシがある。遺体の損傷具合からは強い殺意が感じられ、怨恨の可能性を考慮すればMさんの身近な存在が疑わしい。そもそもMさんは香川県から引っ越してきてから半年しか経っていない。交友関係も限られており、重要参考人の絞り込みは容易と思われた。

 ところが捜査は難航した。

 わずかな目撃情報は得られたものの、犯人に繋がる決定的な情報や証拠は見つからない。物的証拠といえるのは、Mさんの遺体に付着していた小さなビニール片のみ。2010年2月26日、警察庁は本件に捜査特別報奨金制度を適用した。事件発生からわずか3カ月でのスピード適用である。

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 捜査特別報奨金制度は、現在でこそ浸透し、凶悪犯罪が起きた際には目にする機会も増えた。だが、この制度が導入されたのは2007年。Mさんの事件は制度開始から16例目の適用だった。

 千葉県市川市で市橋達也が英会話学校講師リンゼイ・アン・ホーカーさんを殺害した事件で適用(告示日は2007年6月29日)されて制度の知名度は飛躍的に上がったものの、事件発生から半年以上経過したケースが対象となることが多かった。Mさんが殺害された事件でスピード適用されたのは、それだけ世間の注目を集めていたということになる。

Mさんの葬儀は悲しみに包まれた ©時事通信社

 また、警察も相当焦っていたのだろう。事件解決や被疑者検挙に直接つながる有力情報の提供者には、最大300万円が支払われることが発表された。

 制度適用の効果もあってか、合同捜査本部には1690件もの情報が寄せられた。動員された捜査員はのべ6万人以上を超えた。それでも、犯人は見つからない。そのまま、なんと7年が経過してしまうのである。

 完全に“迷宮入り”したかに思われた。だが、事件は意外なかたちで解決を見る。