夫妻の居室には居間、寝室、浴室、洗面所、車いす対応のお手洗いがあり、広々と感じられる。居間の壁に設置された手すりもしゃれたデザインで、病室の殺風景さからは程遠い。テレビや家具も新調して、居心地のよい住まいとなった。
ここでの生活は、毎日の食事時間が決まっているほかは、自由に過ごすことができる。
筒井さんの施設でのスケジュール
「自宅と同じようにはいかないけれども、毎日の食事のメニューをある程度、自分で選べたりします」
施設での献立と、それ以外にも…
献立表を見せていただいた。朝はパンかご飯、昼食・夕食は肉料理か魚料理。どちらか好きな方を選んで、三週間前までに渡しておくシステム。決められた時間になるとスタッフさんがお部屋に迎えに来て、一階の食堂へ。入居者の必要に応じて介助してくれる。
「それに、僕が美味しいものを食べたいと言ってるもんだから、時々、外食ツアーに参加します。これは僕ひとりのためじゃなくて、前々から開催されているんですね。この前は老舗の北京料理店へ行ってきました。参加者は我々夫婦を含めて五人で、介助の人が三人で連れていってくださった。こうしたオフの日には、他の参加者とおしゃべりしたりして、楽しいですね」
リハビリは週に二回か三回、一階のリハビリルームで理学療法士さんと軽く行う。また、一人での入浴が困難な筒井さんは、週に数回、特別な浴室へ。
「お風呂は機械が勝手にやってくれてますね。体全体を洗って、横倒しになるようなベッドに寝たら、ワーッと上に上がって、横に行く。ガーッと降りていったら浴槽の中。これは楽です」
「家のお風呂で手伝おうとすると、かえって二人ともひっくり返りそうやから、お任せできるのは安心です」と光子夫人もほっとした表情だ。
「パソコンはマックブックが三台ほどあるんだけれど、以前の病院には、うっかりだめな奴を持って行ってしまった。ようやく、こちらにいいパソコンを持ち込んだ。やっとこれで外部と連絡ができるようになりました。原稿を書いて、いちいち封筒に入れて出版社に送るような面倒なことをしなくても、メールで送れるようになった。だいぶ楽になりました。執筆は食事やリハビリの合間合間に、自由にやっています」
出版社経由で持ち込まれるさまざまな仕事の依頼にも、自身で諾否を判断してメールで返信する。これで、自宅にいた頃と変わらず、支障なく仕事ができるようになった。90歳を記念してのNHK-BSの特集番組では、施設の共用の応接室にテレビカメラを招き入れ、インタビューに応じることもできた。