満足度はたいへん高いと言うお二人

 一種の集団生活でもあるため、ほかの入居者とどのくらい親しくすればよいのか、というあたりも気になるところ。

光子さん「おしゃべりもしますが、その場限りですね。でも、みなさん親切ですよ、優しくて」

筒井さん「いろんな人がいますから、へたに深入りしなくてもいいんですよ。僕もオフで一緒になるときにはお話ししますが、帰ってきて食堂で会っても、お互い、だいたい忘れてる(笑)」

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 実際に暮らしてみての満足度はたいへん高いと言うお二人。欠点や要望があれば教えてください、と筒井さんに伺ってみたが、「いやあ、ここは最高です。値段も最高級の施設のようですがね(笑)」と含み笑いされるところは、さすが『富豪刑事』の作者なのだった。

 他の入居者やスタッフの人たちとも、食事の時間を確認したり台風の進路を心配したり、日常的なコミュニケーションを取りつつ、お互いのプライバシーにはあえて踏み込まないよう、節度をもったやりとりを心がけるのが、円満な暮らしの秘訣かもしれない。入居者それぞれの状況に応じた介護や、いざというときの医療サポートを受けつつ生活できるのが、住宅型有料老人ホームの魅力だろう。

 写真撮影のため、筒井さんにパソコンを開いていただいたところ、筒井ファンとの交流の場であるウェブサイト「笑犬楼大飯店」に、新たなメッセージが。

筒井さん「おい、Kを予約したんだって。フレンチ、行けるぞ。Mさんが手配してくれる」

光子さん「まあ、うれしい」

 筒井さんを囲んでの食事会の準備が進行中。施設側と智子さんが細やかに連携し、介護スタッフの同行は必要か、介護タクシーの手配など、細やかにサポートされている。

「僕の小説を愛読し、オフ会を企画してくれるファンの連中がいる。いつまでも、ありがたいことです」

 高齢者施設での生活でも、パソコンは筒井さんにとってのライフライン。ファンとの交流も編集者とのやりとりも、自宅と同じように行える。今後は、連載を再開した「自伝」を完結まで書ききりたいと、意気込みを語った。

取材・文◎田中光子(『文學界』編集委員)