「警察だ。何しに来たかわかるよね?」

「おたく宮本さんだよね? 警察だ。何しに来たかわかるよね?」

 警視庁に業務上横領の疑いで逮捕された。

「時効の期間を勘違いしていたんです」

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 単純横領罪は5年だが、宮本さんは店長だったため、時効が7年ある業務上横領罪が適用されたのだ。

 警視庁が逃亡先をつかんだのは、宮本さんが空き巣に保険証を盗まれたことがきっかけだった。期限は切れていたが、いざというときに自分が何者かを証明するため、捨てずに取っておいたものだった。保険証の住所は東京都台東区。盗んだ人物が保険証のコピーをつけ、台東区役所に住民票の異動を申し込んだ。

「今から思うと、振り込め詐欺や貧困ビジネスの目的で、私になりすまそうと考えたんでしょう」。区役所から警視庁に連絡がいったという。

居酒屋「グランマ号」店主の宮本信芳さん。店内にはチェ・ゲバラののれんが下がる

街で出会った友人らが「刑の軽減」を求めた

 逮捕後に謝罪の手紙を出した相手側の社長から「刑務所に入ることを望まない」との返事があった。

 最初に今あるお金をまとめて渡し、残りは月3万円の13年払いで返済することで話がまとまり、不起訴処分(起訴猶予)となった。その間、釜ケ崎で出会った友人らが刑の軽減を求める嘆願署名300人分を集めてくれたことも知った。

 釈放されて釜ケ崎に戻った。近所や居酒屋で嫌がられるかと心配していたが、気にせずに自然と受け入れてくれた。

 釜ケ崎の「三角公園」で開かれる夏祭りに関わるようになり、カンパのお金を預かることも増えた。預かり金は多いときで20万~30万円になった。