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第5回:最高の日曜日ちっとも意識高くない。「最高の日曜日」の過ごし方。

genre : エンタメ, 読書

note

 午後3時。ムクリ。そろそろ本格的に起きましょう。風呂を沸かし、平日はもったいなくて使えないバスソルトを景気よくドバドバ入れる。女同士の集まりで、ちょこちょこ交換されるプレゼント1位といえばバスグッズ。人から貰ったそれらは溜まる一方だから、こういう時にもったいぶらずに使うのが良い。

 午後3時半。ジップロックにスマホを入れ、ペットボトルとともに風呂へ持ち込む。湯に浸かりながら無課金ゲームをやる。私には助けなければならないパンダがいるのです(そういうゲーム)。全身の毛穴から汗が噴き出してくる。最初は汚れた汗。今週飲み込んだ嫌なことが、毛穴から全部出ていくみたいで気分が良い。それからサラサラした気持ちのいい汗。体の中が循環しているのを感じる。なにが循環しているかって? そんなの知らんがな。

 念入りに髪を洗い、トリートメントをする。流すまでの間に踵(かかと)をゴリゴリ削る。クレイパックで顔面の余分な古い角質も落としてしまおう。ガサガサしていた鼻の頭がツルツルして気持ちがいい。あ、もう風呂場に1時間半もいるではありませんか。フフフ。訳もなく楽しい気分に包まれる。なにか善行を積んだ気にすらなってしまう。だから、浴室の隅の小さなカビには目をつぶっても良しとする。

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 新しいバスタオルで全身を拭いて、気が向いたらマリアージュ フレールの紅茶をいれましょう。パナマは癖があって好みが分かれるけれど、私は好きです。濃い目に出した紅茶に氷を入れる。美味しいたらありゃしない。ここでだいたい5時。部屋が汚いことに気付く。また、目をつぶる。

 さあ、なにをしようかな。マッサージに行くか、喫茶店に行くか。大きなあくびと伸びをする。喫茶店に行こう。美味しいコーヒーを飲もう。夕方5時からじゃ、意識低いけど。長らく読みかけのままリビングで埃をかぶっていた文庫本を、小さなトートバッグに忍ばせる。化粧もせず自転車にまたがり喫茶店へ。夕方の向かい風がシャツの中に滑り込み、湿った肌を乾かしていく。

 午後5時15分。喫茶店二階席のベランダでラテを飲みながら文庫本のページを繰る。至福。これこそ休日。読書なんてガラじゃないのに、日曜の夕方にそれをやると贅沢な気分になれる。お、友人からごはんの誘い。ちょっと考えて、断る。今日は徹底的にダラダラしたいのだ。

 夜8時。気力があったら自炊する。なければ出来合いのものを買って帰る。アイスクリームも忘れずにカゴへ入れる。家ではバカバカしいテレビを見ながら、笑う。申し訳程度に部屋のゴミを拾い、やはり日のあるうちに掃除だけはしておけばよかったなと後悔する。

 誰とも何もシェアしない、私の最高の日曜日。インスタグラムにもフェイスブックにも載せるものがまるでない、低め安定の休日。平日の頑張りはこれありきですよ。

 ダラダラするのに高尚な理由も言い訳も、そこから得られる特別な気付きも、なーんにもいらない。ただ、ダラダラする。それでいいのだ。

ジェーン・スー

ジェーン・スー

東京生まれ、東京育ちの日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの作詞家としての活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」でパーソナリティーを務める。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ文庫)、『ジェーン・スー 相談は踊る』(ポプラ社)があり、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。

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