大村先生の置き土産

彬子女王 中近東文化センター総裁
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 それは5月20日のお昼過ぎのことだった。とある学校に講義に向かう途中、助手席に座っている側衛に「宮務官からです」と電話を換わられた。受けると、「今朝大村先生がトルコのご自宅で亡くなられたそうです」と言われた。側衛に電話を返しながら、「大村先生が亡くなられたって……先月お会いしたのに……これからトルコ……どうなるんだろう……」文章にならない言葉が口からあふれ出る。脳が事態を理解することを止めたまま、私は講義に向かうことになったのだった。

彬子女王 Ⓒ文藝春秋

 大村幸弘(さちひろ)先生は、トルコ中部のカマン・カレホユック遺跡の発掘調査に40年の長きに亙り、携わってこられた考古学者。中近東文化センターの理事長であり、アナトリア考古学研究所名誉所長であった方である。古代アナトリアで、史料がほとんど見つからないことから「暗黒時代」と言われていたヒッタイト帝国滅亡後の地層から、人類の生活の痕跡を発見したり、製鉄技術の誕生の歴史が大きく遡るかもしれないという遺物を発見したりと、考古学界が揺れるような功績を度々挙げられてきた。

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source : 文藝春秋 2025年8月号

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