太ったままでいい

デーブ大久保 元巨人軍選手
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元巨人捕手で野球解説者の「デーブ大久保」こと、大久保博元氏(58)。西武ライオンズの新人時代から声をかけてもらったという“野球の神様”への思いを語る。

 監督(長嶋さん)に初めてお会いしたのはライオンズ入団の1、2年目で、「大久保君か」と声をかけてくれました。今のライオンズは、おかわりくん(中村剛也選手)を始め、「太ってても打てればいい」なのに、当時は全く違っていて、「痩せなきゃいけない」という方針。「僕が太っていることを分かって採ったはずなのに」と理不尽さを感じていました。すると監督は「いい体してるじゃないか! 痩せなくていいんだぞ。そのまま頑張りなさい」と励ましてくれたんです。“神のお告げだ”と思いました。

ミスターから「痩せなくていいんだぞ」と言われた大久保氏 ©時事通信社

 しかし、入団3年目から減量方針が強化され、罰金が科されるように。1カ月で5キロ減量できなければ、1キロ5万円、月計25万円も取られたので、無理矢理、痩せました。鍛えればまだ体が大きくなる成長期に、下剤を飲んだり、食べないことで十二指腸潰瘍にもなった。

 しかも痩せたことでヒットしか打てなくなった。僕は“各駅停車”。足は速くないので、単打を打っても意味がない。長打を打つから相手も嫌がるので、「これでは俺じゃない!」と“神のお告げ”を思い出して、「減量はやめます」と宣言したんです。コーチからは相手にされなくなりましたが、当時のイースタン記録となる24本塁打、70打点で二冠を獲得しました。「長嶋さんの言っていた通りだ。痩せていたら成績がよくなるわけがない」と、本当の恩人だと思いました。

 何より幸運だったのは、トレードで巨人に移った翌年、長嶋さんが監督になったことです。

 とはいえ“監督”というより“神”のような存在。現役時代のプレーは観ていないのですが、小学校の図書館に、バットを構える長嶋さんを横から撮った写真が載った本があって、あまりに格好よかったので、小さな頃からマネをして、手の使い方などを学びました。もう時効だと思いますが、借りたままのその本はまだ実家にあるはずです(笑)。

 普通は見ることも会うこともできない“神”が監督になる。どうなっちゃうのかと思っていると、キャンプ初めのミーティングで監督が掲げたスローガンは「スピード&チャージ」。「俺、終わったな」と落胆していると、「ぶーちゃん!」といきなり呼ばれて、おそらく太っている自分のことだろうと、「はい」と返事をすると、「ぶーちゃんの中での『スピード&チャージ』でいいんだぞ」と気遣ってくれたんです。これで「俺にもチャンスがある」と一気にやる気になりました。

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source : 文藝春秋 2025年8月号

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