個性的で型破りな人々が揃った作家一家で育ち、自身も小説やエッセイを通じて、独自の視点で発信し続ける作家、佐藤愛子(1923〜)。90歳になって「何がめでたい」と痛快に言い放った著書がベストセラーになったことは記憶に新しい。娘の杉山響子氏が、同居してきた母の姿を綴った。
母が変人である、という原稿を書いてくださいと言われた。けれどずっと母と2人で暮らしてきたので、母のおかしさは普通になってしまっている。どの辺が変人なんだろう、と頭の奥からいろんな思い出を引っ張り出してみることにした。

そういえば、北海道の別荘でロッキングチェアに逆向きに座って漕いでいて、ひっくり返ったことがあった。子供が電車の座面に膝をついて車窓の風景を眺める、そんな恰好でロッキングチェアに膝をつき、背もたれを掴んで揺らし始めたのだ。還暦もとうに過ぎていたのに。
「危ないよ」
私はちゃんと注意した。すると、こういう時、母はわざと注意されるようなことをする。「どうだー」と言わんばかりに背もたれを掴んでギッタンバッタン漕いで、次の瞬間、犬神家の一族のスケキヨのように逆立ちになった。ドドンと乾いた音がして母は絨毯の上に巴投げの要領で放り出された。その時の母が履いていた足袋風の靴下を忘れない。毛玉だらけのえんじ色であった。それが天を衝いていた。私は腹を抱えて笑いたくなったが、ここで笑ったら𠮟られるので渾身の力で抑え込んだ。
「大丈夫?」
という自分の声が震えていた。普段、偉そうにされている分、少し溜飲が下がったりもした。
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