「メメント・ヴィータ」藤原新也さんインタビュー

エンタメ 読書
藤原新也氏 Ⓒ文藝春秋

「いま世界に押し寄せている死の洪水」

 ベストセラー『メメント・モリ』の刊行から40年。快楽原則の時代に「死」という一石を投じた著者は、81歳となったいま、剥き出しの死と直面せざるを得ない時の中で思索する。シリアやウクライナ、パレスチナで繰り返される殺戮、東日本大震災と原発崩壊、コロナパンデミック――。本書は、2020年から3年続けたポッドキャスト番組「新東京漂流」から、3000枚の文字起こしを下敷きにした全篇書き下ろしだ。

「最初はポッドキャストをそっくり1冊にしようという発想だった。ところが、写真家の習性で、書かれたものをどうしても他者として客観視してしまう。3000枚にみっちり朱入れし、都合、3回校正した。何年も経つうち途中で宗旨替えした部分もある。お陰で僕もいまだに腱鞘炎だし、編集者も大変だったと思う」

藤原新也『メメント・ヴィータ』(双葉社)2750円(税込)

 配信は、房総半島の自宅の庵「八角堂」や新宿のアトリエから毎週行われた。

「新宿なら街の子どもたちのさざめきが、房総なら鳥の囀りや雨音が響く。コロナ禍という非接触の時代にあって、声というのは極めて接触的なメディアだと、あるとき気が付きました。その声はしかも、外界から遮断されたスタジオより、雑音にまみれたパーソナルな空間から発した方が、より伝わりやすいものになる。それが不思議でした」

 声という唯一無二の媒体から生まれたのが、書き言葉と話し言葉の中間のような本書特有の文体だ。瀬戸内寂聴との死をめぐる対話、白土三平の房総での暮らし、門司港の老舗料亭での最後の晩餐から「ため息世代」との交流まで、自由な語りは心地よく、発見に満ちている。

 全34篇のなかでも圧巻が、書名となった最終篇「メメント・ヴィータ(生を想え)」。オウム真理教の教祖・松本智津夫元死刑囚の実兄との邂逅から、事件の洞察は現代社会の洞察へと飛躍する。

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source : 文藝春秋 2025年9月号

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