
「歴代長官は退任する際、例外なく、精魂尽き果てています」
日経新聞の皇室担当記者を20年近く務めた井上氏。昭和天皇が靖国神社に参拝しなくなった理由について記した「富田メモ」をスクープするなど、富田朝彦氏ら歴代宮内庁長官に食い込んできた。
「長官の重要な仕事は、天皇の政治利用に対する“盾”となることです。宮内庁は内閣の一部局ですが、時に総理の指示にも立ち向かわなければならない。ただ、天皇の側近として知られる侍従長と比べて知名度は低く、焦点を当てた書籍もない。彼らの仕事を書き残したかった」

2009年、中国・習近平国家副主席との「天皇特例会見」で羽毛田信吾長官が「二度とあってほしくない」と苦言を呈するなど、“盾”となってきた歴代長官だが、政治利用に抗うのは極めて難しい。
「安倍政権で、サンフランシスコ講和条約発効を記念した『主権回復の日』式典に天皇の出席が求められました。ただ発効時、米軍施政下にあった沖縄にとっては本土から切り離された『屈辱の日』。明仁天皇も難色を示していた。私は風岡典之長官に『自らのクビをかけて止めてください』と訴えたが、結局出席に。天皇が内閣に反旗を翻すと、それ自体が政治的行為とみられる難しさがありました」
他方、平成改元の際の藤森昭一長官は宮内庁の特質を「人間の感情を相手にしなければならない組織」だと語った。
「藤森さんは徳仁皇太子夫妻の不妊問題に直面。ご夫妻に寄り添って取り組んだが、明仁天皇は不満だったようで、後に参与となった藤森さんを厳しい口調で面罵したことも。生身の人間である家族間の問題に公的機関が介入するのは難しい」
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