死んだら永遠に会社を休める――働きすぎて心身ともに限界を迎えた人の耳には甘い誘惑として響くかもしれない。強烈なタイトルを掲げた本書は、ブラック企業を舞台にしたミステリー小説だ。
主人公の青瀬は上場企業の川崎事業所に勤める28歳の会社員。彼女が所属する「総務経理統括本部」に舞い込む仕事は単純で付加価値の低い事務処理ばかりだが、1か月の残業時間が多い時は200時間を超える過酷な労働環境でもある。

著者の遠坂八重さんは2022年に『ドールハウスの惨劇』(祥伝社)でボイルドエッグズ新人賞を受賞し、デビュー。現在も会社員として働きながら小説の執筆を続けている。
「私自身、青瀬ほどではないものの、新卒で入った会社では長時間労働が続き、キャパオーバーを起こしてしまいました。その時の実体験が青瀬に投影されています。たとえば、青瀬がラップにくるんだ白米を職場に持参する、という描写です。昼休憩に外食する時間はないし、コンビニは選択肢が多すぎて途方に暮れる。疲れ果てていると、選択するという行為そのものが億劫になってしまう。おにぎりの形に握ったり、具を入れたりする気力すら湧いてこないのです」
事件の発端は、青瀬の上司である前川部長の失踪。罵詈雑言や暴力などパワハラ三昧の前川部長は、部下たちをして「極力死体で出てきてほしい」と言わしめるほど疎まれている。彼が全従業員宛に一斉送信したメールの件名は「私は殺されました」と物々しい。そして本文では容疑者として青瀬を含む総務経理統括本部の5名全員が名指しされていた。あらぬ疑いをかけられた青瀬は、妙に勘の鋭い派遣社員の仁菜に強引に引きずられる形で真相解明に乗り出すことになる。
「あまりに青瀬が不憫なので、利害関係なく親身に寄り添ってくれる仁菜を探偵役に据えました。コメディタッチで救いのある物語にしたいと思って、底抜けに明るい仁菜というキャラクターを投入したのですが、それでも書店員の方々から『(結末が)怖すぎる』という感想をたくさんいただいて、あれ? と(笑)」
事件をさらに複雑にしているのは、肝心の青瀬が極度の疲労から視野狭窄に陥っていること。ようやく視界が開けたとき、残酷な真実が突きつけられる。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
今だけ年額プラン50%OFF!
月額プラン
初回登録は初月300円・1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
オススメ! 期間限定
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
450円/月
定価10,800円のところ、
7/31㊌10時まで初年度5,400円
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
電子版+雑誌プラン
18,000円一括払い・1年更新
1,500円/月
※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2025年7月号