富士山のイチロー

實川 欣伸 登山家
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 2240回――私が昨年までに富士山に登った回数です。ただここ2、3年は体の衰えも隠せなくなってきました。昔は富士宮口の五合目から山頂まで登って下りてきても4、5時間ほどでしたが、いまは12時間。それでも昨年、81歳で8回登頂し、最多記録を更新しました。

實川欣伸氏 Ⓒ文藝春秋

 初めて富士山に登ったのは建設会社に勤めていた42歳のとき。横浜で生まれ育った私は、その数年前に沼津に転居。「人生で1回は登りたい」という、極めて普通の理由でした。その後、電子部品会社に移ると、働きに来ていた中国の研修生のリクエストもあり、年に数回、彼らを案内して登るようになりました。そして夏になると、富士山に足がひとりでに向くようになっていきました。

 毎日のように登るようになったのは、リーマンショックのあった2008年。定年後に働いていた会社を退職して時間に余裕ができ、ガソリン代節約も兼ねて1日2回、3回と登り続けたのです。私は沼津市に住んでいますが、車で富士宮口の五合目に行き、朝8時から登って3時間で登頂。山頂で記録写真撮影後、1時間半で下りる。五合目で昼食を食べ、もう一往復する。トータル9時間半ほどで2回登れます。

 この年は248回。イチロー選手が8年連続で200本安打以上というメジャータイ記録を達成した時期で、「富士山のイチローになってやる」と思い、それから毎年、200回以上登り続けました。55時間で8回連続登頂したり、1日2登頂を75日間連続で行い、14年、強力(ごうりき)の梶房吉さんの記録を抜く、1673回を達成しました。

實川氏は登頂の記録として写真を撮っている Ⓒ文藝春秋

 筋トレなどのトレーニングはしていませんが、オフの時期は毎日、4時間ほど散歩をしています。毎日欠かさず食べているのはニンニク。野菜と一緒に炒めたり、すり下ろして肉に付けたり。子どもの頃から何十年も食べ続けています。お陰で、山でバテることはありません。

 服装はいつも長袖、長ズボンが私のスタイル。暑ければ袖をまくり、寒ければカッパを着ます。最近、軽装で登る人がいると批判されますが、現実問題、夏は暑いんです。富士登山競走の時は半袖、短パンで走っているのですから、特に目くじらを立てることではない。ただ、夏でも低体温症の危険はあるので、万全の備えは必要です。

 高齢者にお薦めなのは須走(すばしり)ルート。距離は御殿場ルートの次に長いですが、なだらかなので登りやすい。森林限界を超えると岩と火山灰の道になりますが、七合目あたりまでは樹林帯が続く。山を登っている実感が持てます。

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source : 文藝春秋 2025年9月号

genre : ライフ スポーツ ライフスタイル