レトロモダンの咆哮

佐野 史郎 俳優
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 今年は戦後80年、昭和100年。昭和の佇まいを残した喫茶店が“エモい”と、若い世代に受け入れられているという。世代は違えども、やはり懐かしさと安らぎを感じるのだろうか?

 初めて1人で喫茶店に入ったのは高校生になってからだっただろうか。故郷、島根県松江の路地裏、ロックがかかっている喫茶店があると聞き、勇気を出して木製のドアを開けた。ビートルズの「ラバーソウル」が流れていた。

佐野史郎氏(本人提供)

『喫茶MG』。扉を開ける時、胸がときめいた。看板娘のあっちゃんは今も変わらずカウンターの中に立ち、美味しいコーヒーを淹れてくれる。

 戦後10年生まれの中高生時代、トランジスタラジオに齧りつき、ロックやフォーク、歌謡曲に映画音楽、ジャズにボサノバ、イージーリスニングを、育ち盛りの体そのままに摂取していた。特に深夜放送から流れてくる最新の洋楽や、そこに真っ向から挑むような日本の音楽に耳をそばだてていた。岡林信康、加藤和彦、遠藤賢司、高田渡、はっぴいえんど……1960年代後半から70年代初頭にかけての頃のこと。

 届いてくる電波は東京から。

 深夜11時頃から、どういう原理なのかはよくわからないが、電離層に反射して、東京の放送局の電波がリアルタイムで山陰にまで届いてくる。

 今でこそ、インターネットの配信サービスなどで新旧問わず湯水の如く好きな音楽を聴くことができるし、スマホのアプリradikoなどを使えば日本各地の放送局の番組を聴けるけれど、東京の時間を同時に山陰の地方都市で受け止めることのできる不思議さを、物心ついた頃からネット環境が整っている世界で育った世代に果たして理解していただけるだろうか?

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source : 文藝春秋 2025年9月号

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