先日、スライ・ストーン、ブライアン・ウィルソンが亡くなりましたね。何だか20世紀が終わった感じがします。そういう中でも、僕が懐かしさとワクワクを語れるのは音楽しかないんですけれども。

僕が音楽に接し始めた幼少期から本当に1年ごとに、新しい音が流れてきました。1950年代の音楽を通じて様々な国の音に触れることができた。ラテンや映画音楽、ムード音楽、日本だけのジャンル“中間音楽”などの音で溢れていました。音楽の中心はアメリカでしたが、現在のように情報が伝わってこない。情報を得るのはFENなどのラジオ、そして本国版「ビルボード」などの雑誌だけ。主に行くレコードショップは目黒のスミ商会、遠出して銀座の山野楽器でした。マニアックな品揃えは期待できないけど、土地に根づいたレコード屋さんは懐かしい存在になりましたね。
当時のヒット曲というのは“良い曲”で、つまらない曲はヒットしてなかった。だから、すごく価値観がシンプルな時代。ポップスは伝統に繋がっているジャンルで、その流れで一箇所、革新的なところ、仕掛けを持つとヒットしていました。僕は、そんなヒット曲を聴くことで、伝統からちょっとずつ進歩してゆく音を捉えていったんだと思います。
加えて僕ら音楽好きは“探す”という行為自体も好きでしたね。20代の頃、アメリカ西海岸のサイケデリック音楽を手に入れたいと思っていると、大瀧詠一くんから電話がきた。大瀧くんが「探してたアルバム、新宿の店にあるよ。僕が番をしてるからおいで」と(笑)。これはワクワクしました。その店へ行くまでの道のりとか含めて、意中のレコードを手にするまでの過程が素敵だった。またレコード屋さんで“餌箱”を素速く繰って盤を見つけるのも楽しかった。知らないレコードだけどジャケットで「コレ!」と決める時もあり、それこそ直感の出逢いがありました。直感といえば、ヤマハ楽器のレコード部に行き、1曲だけ試聴してみる。そこで中学の時から大好きだったザ・ビーチ・ボーイズの新譜から1曲選んで聴き、「あ、当たった!」という時の高揚感も忘れられないな。海の向こうのバンドを直接見知ってるわけじゃないけど、好きで聴き込んで学んできた積み上げによって“出逢い”が用意される。なんか多幸感がありましたよね。

このビーチ・ボーイズが現れた当初、まずサウンドと共に「サーフィンって何?」というカルチャーショックを受けました。そこから、明るい音の時代から内省的サウンドまで追っかけていった。初期メンバーのデヴィッド・マークスというギタリストが一つ年下で、彼の演奏を耳にすると「やってるな!」と共感したりして。そういう何だかわからない一体感は距離があるほど強まった気がします。
最初で最後のファンレター
音楽の点でテレビはアテにならない。60年代の日本だと海外の焼き直しのポップスが主流で“いま”の音楽に触れられません。でもある日「ザ・ヒットパレード」という番組を見てたら、ボビー・ダーリンのシブい曲“You Must Have Been A Beautiful Baby”をカバーした「ビューティフルベイビー」を唄う歌手がいた。僕は思わず「すごいや!」と感激して、唄っていた鹿内孝さんへ姉とファンレターを書き、お返事も頂きました。あれは最初で最後のファンレター体験でした。
そういうイレギュラーな音楽体験はあるけれど、メインはラジオ。父のトランジスタラジオを僕のものにして深夜まで聴いていました。MONOなんだけどイヤフォンジャック二つからコードを引っ張って耳に付けて。FEN以外にはラジオ関東の「ポート・ジョッキー」という番組が懐かしい。ウィークデイの夜11時、汽笛の音とビリー・ボーン楽団の「浪路はるかに」が流れるオープニング。なんだか家で聴いてるのに港町の旅情というやつがあって良かったな。当時のラジオはトークは少なく、メインは音楽。各局、個性の違うディスクジョッキーがセレクトした曲を聴くという楽しみがありました。ワクワクを感じていた時代と比べ、現代はネットの影響でサウンドが世界中で均質化・飽和状態になってしまってる気がする。逆説的ですが、そんな今だから従来の音が滅び、やっと21世紀の音楽が始まるのかな、なんて。僕の頭の中ではそんな期待と、懐かしい音が未だに新しく響いている感じです。
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