丸の内の旧国鉄ビル

原田 ひ香 作家
ライフ 昭和史 ライフスタイル 歴史

 私が会社員になれたのが、平成6(1994)年でした。場所は、東京駅の丸の内北口を出たところ……現在の丸の内オアゾのあるところです。当時、あの場所にはJRビル(旧国鉄ビル)の新館と旧館が建っていました。

 私は日本国有鉄道清算事業団という特殊法人に入社し、総務部総務課秘書室に配属され、新館の6階の役員室で勤務していました。

 JRビルには、国鉄清算事業団本社、JR東日本の役員室や総務、広報など、そしてJR東海の新幹線本部と総務などが入っていました。

 小説家になって、オアゾの丸善さんには何度か書店回りをさせていただいていますが、そのたびに感無量という気持ちになります。特に今の5階のあたりから見える東京駅は、私がOL時代に毎日見ていたものとほぼ同じ高さ、同じ角度だと思います。

原田ひ香氏 Ⓒ文藝春秋

 まあ古いビルで、特に旧館は日本でもかなり早い時期にエレベーターが設置されたと聞いています。とにかく、焦れったいほどゆっくりと上っていくエレベーターで、あれほど遅いエレベーターは他に乗ったことがありません。

 旧館の窓ガラスはとても古く、昭和の手作りのものだと聞きました。なので、真っ平らではなく、夏のかげろうのように、微妙なウェーブが入っていました。ここは映画やドラマの、昭和のシーンの撮影に何度も使われました。

 こう書くと、旧館の方がことさら古いようですが、実際には新館もすでにとても古く、お客さんから「あの……新館と聞いているんですが、新館はどこですか?」とよく聞かれました。

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source : 文藝春秋 2025年9月号

genre : ライフ 昭和史 ライフスタイル 歴史